なんとなく、観返したくなり十数年ぶりの再鑑賞。
久しぶりに観たら、前回よりもさらに心に染みるものがありました。おばあちゃんになったら何を感じるのか、今からちょっと楽しみかも。
監督は『ツイン・ピークス』『マルホランド・ドライブ』のデビット・リンチ。
『マルホランド・ドライブ』は人生マイベスト10に入るくらい好きな映画。
本作は「デビット・リンチらしくない。」と評されることが多い作品で、しみじみと心に染みわたるものがある優しい作品です。
決して耳がちぎれたり、死体が転がってたり、踊る小人は出てきません(笑)
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『ストレイト・ストーリー』
基本情報
監督:デヴィット・リンチ
出演:リチャード・ファーンズワース/シシー・スペイセク
製作:1999年/アメリカ・フランス
リチャード・ファーンズワースが第72回アカデミー主演男優賞にノミネート。(受賞は『アメリカン・ビューティ』のケビン・スペイシー。)
2000年10月6日に自殺したニュースが入ってきたときは言葉を失ったことを今も覚えている。癌の痛みに耐えかねて…ということらしい。
他の出演作は『ミザリー』のおじいちゃん保安官など。
あらすじ
1994年にNYタイムズに掲載された実話を基に、「ツイン・ピークス」のデヴィッド・リンチ監督がユーモアとペーソス溢れるタッチで描いた感動作。アメリカ・アイオワ州ローレンスに住む73歳のガンコな老人アルヴィン・ストレイト。ある日、彼のもとに、76歳の兄が心臓発作で倒れたという知らせが入る。10年来仲違いをしていた兄に会うため、アルヴィンは周囲の反対を押し切り、たったひとりで時速8kmのトラクターに乗って旅に出ることを決意する。引用:映画 ストレイト・ストーリー – allcinema
感想(ネタバレあり)
引用: http://www.imdb.com/title/tt0166896/?ref_=ttmi_tt
静かな映画です。
ゆったりとした音楽と広大な風景とトラクターに乗ったおじいちゃん。そのおじいちゃんが出会う人々。それだけのお話。
終始緩やかにお話は進んでいきますが、決して飽きることはなく、流れに身を任せていると「あたたかいもの」がじんわりと心に染みわたっていく。そんな映画。
とにかくおじいちゃんの言葉が深い!
会いに行く!
主人公のアルヴィンは軽度の知的障害のある娘ローズと二人暮らし。腰を痛め、杖を2本使わなければ歩くことができない。
ある雷の夜、アルヴィンの元に絶縁状態の兄ライルが倒れたという知らせが来る。
引用: http://www.imdb.com/title/tt0166896/?ref_=ttmi_tt
娘ローズを演じるのはシシー・スペイセク。(『キャリー』で大勢の人を血祭りにあげた超能力少女。)
兄が住む町は500km以上離れており、アルヴィンは車の運転はできない。
それでもどうしてもライルに会いたかったアルヴィンは決めました。
時速8キロの小さなトラクターに乗って旅に出ようと。
言ったら反対されるから、ローズに何も言わずどんどんトラクターの改造を進めていくおじいちゃん。食糧とガソリンを買い込んだら、止めるスキも与えずに出発である。
「ライルに会いに行くよ。自力で行くことにしたんだ。」
お友達のおじいちゃんたち(&犬)も心配して飛んでくる。 好きなシーンです。
引用: http://www.imdb.com/title/tt0166896/?ref_=ttmi_tt
見るからに心もとない小さなトラクター。
おじいちゃんたちが小走りで追いつくほどのスピードしか出ません…(; ̄ー ̄川 アセアセ
で、1回目のチャレンジはあえなく失敗。
エンジントラブルでトラックに乗せられて戻ってきたアルヴィンを気まずそうな顔で見るおじいちゃんたち。
「気の毒に…。」
気まずくて目線すらあげられない右端のおじいちゃんの表情がツボ(笑)
しかし、ここであきらめるアルヴィンではなく、壊れたトラクターに向かって銃を撃ち怒りをぶつけつつ、中古のトラクターを買ってまた旅に出てしまいます(笑)
超頑固者だから、行くと決めたら行くのですc( ̄▽ ̄)マカシトキィ!
<スポンサーリンク>一期一会の出会い
この映画を観ると「一期一会」という言葉を思い出します。
旅の道中、アルヴィンは様々な人々と出会い触れ合います。
きっと、もう二度と会うこともないであろう人々との語らいが胸に染みるのです。
どうして彼がトラクターなんかに乗って旅をしているのか。
みんな驚き、不思議に思う。
しかし彼のひたむきな姿は人々の心を打つ。
長く生きてきたからこそ、紡ぎだせる言葉。
そして長く生きてきた人が語るからこそ、聞く者の心に響いてくることがあります。
映画中、たくさんの素適な言葉たちに出会えます。
妊娠5か月の家出少女には、自身の家族の話を聞かせ、家族は「束ねた枝」のようなものだと語る。1本は弱くても束ねれば強くなるのだと。
アルヴィンは多くの子どもに恵まれたが、貧しかった時代に大人になれる子供たちばかりではなかった。子供を失う辛さはよく知っている。娘のローズも子供を失いました…。
「誰もあんたやおなかの子を失ってもいいほど、怒ってやしない。」
アルヴィンの言葉に家族の元に戻ることを決意した少女は「束ねた枝」を残して姿を消す。
ある時は自転車に乗った若者たちと夜を過ごす。
まだまだ老いは遠く、自分がいつか老いることを意識しない気力と体力がみなぎる彼らの問いにアルヴィンは答える。
「年を取っていいことは?」
「経験を積むからね。実とからの区別がついてきて細かいことは気にならなくなる」
「年を取って最悪なのは?」
「若い頃を覚えていることだ。」
この後者の言葉が、後のシーンでものすごく心にガツンと来る。
さらにある時は同世代のおじいちゃんとは戦中の辛い記憶について語りあう。
引用: http://www.imdb.com/title/tt0166896/?ref_=ttmi_tt
初対面で二度と会うことのない相手であっても、地獄のような経験をしてきたもの同士、きっと何か通じ合うものがあったのだろう。 誰にも言えない辛い記憶…。
アルヴィンが若者たちに語った「年を取って最悪なこと」の意味を思い知らされる。
年を重ねても消えることのない記憶。
誤って仲間を狙撃して死なせてしまったこと。誰にも言わず、自分ひとりの心に秘めてきた苦すぎる過去。
「みんなのことが忘れられない。わしが年を取るほど仲間の失ったものが大きくなる。」
修理工のオルセン兄弟には兄弟の絆を語り、ふっかけられた料金を見事に値下げさせてしまう年の功を発揮(笑)車で乗せて行こうという親切な人の申し出も断り、アルヴィンは自力でライルの元に向かう。
「争いの原因が何であれ、もうどうでもいい。仲直りしたい。座って星を眺めたい。昔のように。」
6週間にわたる長い旅。
アルヴィンを動かすのは、ただ「ライルに会いたい。」それだけ。
再会
アルヴィンとライルの間にどんないさかいがあったのか?
詳しいことは明かされません。
身内だから、仲のよい兄弟だったからこそ「許せない。」ことがあった。
きっとひどく傷つけあったのだろうということだけはわかります。
自他ともに認める「頑固」なアルヴィンおじいちゃん。その兄のライルもきっと頑固に違いない。許すきっかけを失い、いつのまにか10年過ぎていた、という感じでしょうか?
でも言葉はいらないのです。
二人は再会した瞬間に許しあっていました。
ドアの外から「ライル!」と呼びかけると、それだけでライルは声の主を瞬時に理解する。
「アルヴィン!」と名を呼びながら、脳卒中の後遺症で歩行器を使いゆっくりとライルが玄関先に現れる。
アルヴィンが乗ってきたトラクターを見た瞬間のライルの表情がすべてを物語っている。きっと幼い頃のように。二人は美しい星空を眺めたことでしょう…。
<スポンサーリンク>まとめ&気になったこと
アルヴィンの表情。
顔に刻まれたしわの一本一本が、彼の歩んできた人生そのもの。
苦しかったことも、悲しかったことも。
あらゆることを飲み込んで、今を生きている。
いつか、アルヴィンと同じくらいのおばあちゃんになった私はこの映画を観て何を思うのでしょうね。まだまだ数十年は先のお話。
家族。ついお互いに言葉がきつくなりがち。
多少のことは許せても、限界を超えることはある。家族ゆえの甘えが負担になることもある。正直面倒くさい。しかし特別な存在ではある。
私にも兄弟がいるけれど若い頃ははっきり言って嫌いだった。あえて会わないように実家に帰省する時期をずらしていた。
しかしある時、私がこだわってる問題は兄弟の縁を断ち切っても構わないほど大きなことだろうか?と思った。かつてはお互い若く幼かったのだ。今は年を重ねお互い中年と呼ばれる年代になった。
お互いに家族を持ち、年に1度くらいしか会う機会はない。年に一度だけの兄弟で過ごす時間であり両親にとっては遠く離れた家族が揃うわずかな時間。その時くらい仲良くすることも大事なのではないか?
そう思って、なるべく普通に当たり障りのない話をするように心がけた。
そうしているうちに段々と昔、傷ついたことは徐々に気にならなくなり、そのうちあまり思い出さなくなった。今はしょっちゅう会う間柄ではないけど、会えば気負いなく普通に話せるようになった…気がする。
若い時にはできなかったので「年を重ねたおかげ」かも。
鹿のおばさん。
森などなく広大な畑を貫くように走るまっすぐな道で、なぜか何度も鹿を轢いてしまうおばさん。どこから来るかもわからない鹿。それを解体して食べてしまうアルヴィン。涼しい顔で角はトラクターのデコレートに使用してるのが面白い(笑)
三本の矢ならぬ三本の枝。
日本では毛利元就の「三本の矢」のたとえが有名ですが、アメリカにも似たような話があるんだなぁと少々びっくりした。アメリカだと矢ではなく「枝」で例えるらしい。
リンチっぽくないけれど。
確かにリンチっぽくはないのですが、雷雨を二人で見つめてるシーンや鹿のおばさんや双子のオルセン兄弟の風変わりなキャラクターのちょっとシュールな雰囲気はリンチ監督らしさがちらっと見えた気がしました。
以上、『ストレイト・ストーリー』の感想でした。
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