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『最後の追跡』/貧しさという名の病。第89回アカデミー賞 4部門ノミネート作品。

本年度(第89回)アカデミー賞において、作品賞・脚本賞・編集賞・助演男優賞の計4部門にノミネートされています。

ネットフリックス製作の作品で、現在ネットフリックスで鑑賞が可能。アカデミー賞の発表もこれからという時期に、すでにネット配信されてるなんて、ネットフリックス、やっぱり超便利!

テキサス西部の片田舎で、連続銀行強盗に手を染める兄弟と彼らを追跡するテキサスレンジャーの姿を描いたクライム・ドラマで、格差社会と貧困の連鎖というアメリカの抱える病理を抉り出した作品。

乾いたテキサスの風景と淡々とした抑えた描写が作品から発する「やりきれなさ」を心に染みわたらせてくれ、、

ひじょーに私の好みの作品でした!!

シブい、とにかくシブくて、激シブ(*´∇`*)

殆どの場面は淡々と進んでいくし、多くを語る映画ではないものの、会話のひとつひとつ役者の表情、声音、どれをとっても味わい深く、かなり見ごたえありました!!

こんなに素晴らしい作品なのに、日本では劇場未公開なのがもったいない!

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『最後の追跡』

監督・出演・製作 基本情報

監督:デビット・マッケンジー

出演:ジェフ・ブリッジス/クリス・パイン/ベン・フォスター

製作:2016年*/アメリカ

脚本家は『ボーダーライン』のテイラー・シェリダン。

確かに両作品の持つ乾いた空気と無力感、虚無感、寄る辺なさは通じるものがあったように思う。

それに意外だったのはクリス・パイン。

彼は私の中ではちゃらくて軽くて粋がってる若造のイメージ。(『スター・トレック』の影響(笑))しかし、本作ではそのイメージを一新。髭を伸ばし、ほとんど笑顔も見せないクールな弟トビーを演じ、しぶ~い演技を見せてくれた。彼の転機になる作品になりそうな予感がしました。

刑務所から出所したばかりの兄タナーを演じたのはベン・フォスター。

よく知らないなぁと思って、過去作品を調べてみたらブルース・ウィリス主演『ホステージ』のマース!

『ホステージ』は10年以上前のブルース・ウィリス主演のサスペンスアクションで、特にオススメするほどの作品ではないのですが、小物だと侮っていたら後半で恐るべきサイコ野郎に変貌する「マース」というキャラクターがいたのです。

マースの印象だけが強烈に後を引く映画だったのですが、まさかこんな形で再会するとは、調べて気づいてびっくりした。

▽定年間際のテキサス・レンジャーを演じたのは『クレイジーハート』で主演男優賞を獲得したジェフ・ブリッジス。本作でもオスカーノミネートされてます。

あらすじ

家族の土地を守るため銀行強盗を繰り返す兄弟と、彼らを追う年老いたテキサス・レンジャーを描いたクライムドラマ。不況にあえぐテキサスの田舎町。タナーとトビーのハワード兄弟は、亡き両親が遺した牧場を差し押さえから守るため、連続銀行強盗に手を染める。慎重派のハワードが練った完璧な計画のおかげで兄弟は次々と襲撃を成功させていくが、刑務所から出所したばかりのタナーの無謀な行動のせいで次第に追い詰められていく。一方、定年を目前にしたテキサス・レンジャーのマーカスは、相棒のアルバートとともに事件の捜査に乗り出すが……。兄弟役を「インフェルノ」のベン・フォスターと「スター・トレック」シリーズのクリス・パイン、テキサス・レンジャーのマーカス役を「クレイジー・ハート」のジェフ・ブリッジスがそれぞれ演じた。「ボーダーライン」のテイラー・シェリダンが脚本を手がけ、「名もなき塀の中の王」のデビッド・マッケンジーがメガホンをとった。引用:http://eiga.com/movie/85550/

兄弟の絆、相棒との絆。そして「ロクデナシ」であっても最後まで貫かれた男の美学は必見の価値あり!

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感想(ネタバレあり)

※結末そのものには言及していませんが、雰囲気はほぼネタバレしています。

銀行強盗と彼らを追う男たちの心情を丁寧に描き出しながらも、ウェットな雰囲気はない。舞台となっている乾いたテキサスの大地のように、全編にわたって乾いた雰囲気を持った作品でした。

アメリカというまず最初に何をイメージするだろう?

自由の女神、ハリウッド、高くそびえ立つニューヨークの摩天楼。ありがちですが、私の中ではやはりきらびやかで華やかな都会のイメージが強い。

しかし、こんな風に「華やかさ」「煌びやかさ」とは無縁の土地もあるということ。取り残されて零れ落ちてしまったさびれた小さな町で、先に希望など持てない貧困にまみれた人生を送っている人々がいるのだということ。改めて思い知らされる。

廃れた町を車で走れば目につく「借金」の看板、壁に書かれた「イラクに3回行ったが支援はない。」の言葉。町を飲み込んだ閉塞感に出口は見えず、息苦しさが広がる。

他に進むべき道はない。

作品中に何度か印象的に登場する広大な草原の中をまっすぐに走る一本道は、

「これ以外は進む道はない。」

そんな男たちの人生を象徴しているようにも思える。一本道を行く彼らの頭上には高い青空が広がる時も、低い曇り空が垂れ込める時も、そして野火の煙が黒々と立ち上るときもある。

それでも彼らが進むべき道は他にはない、そんな風に兄弟は次々に銀行を襲う。

兄弟がなぜ銀行強盗に手を染めることになったのか?詳細は多くは語られず、断片的な情報がぽつりぽつりと明らかにされてゆき徐々に背景が見えてくる。説明臭いセリフがないのもテンポが崩れなくていい。

トビーが周到に立てた計画は順調に進み、彼らは金を着々と手にしていくが、刑務所上がりの前科者で無鉄砲な兄タナーの思いつきの行動で、追い詰められていくことになる。

兄弟を追うのが、定年間近のテキサス・レンジャー、マーカスとその相棒アルベルト。皮肉屋でからかい好きのマーカスはベテランらしい勘を働かせ、徐々に兄弟に迫っていく。

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引用:http://eiga.com/movie/85550/

この二人の関係もなかなか良くてね、口が悪くて「からかいや」のマーカスはアルベルトにとって「鬱陶しい存在」でもあり、時折苛立ちを見せることもある。しかし、やはりベテランの先輩マーカスを気遣う心も見せる。

そして馬鹿にしているようにも思えるからかいを繰り返すマーカスがいかにアルベルトを大事に思っていたか・・・、終盤に起こる「ある出来事」によって明らかにされていく。

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引用:http://eiga.com/movie/85550/

タナーとトビー。

性格は真逆の二人だが、酒を飲みながら笑い合う様子はごく普通の仲のいい兄弟にしか見えない。ロクデナシでも兄は兄。弟のために銀行強盗に手を貸し、最後は汚れ役を引き受ける。おそらくは彼が刑務所に入ることになった件の事件も家族を守るためだったのではないかと想像した。

顔も見ずに「愛してるぜ。」と弟に告げて走り去っていく兄貴のなんとかっこいいことか!!

貧しさと言う名の病

アルベルトのセリフで非常に印象的なものがある。

「かつて先住民族から白人が奪った土地を今度は銀行が白人から奪っていく。」

そう、銀行は人々の貧しさに付け込む。最初からいずれ土地を奪うつもりで、あくどい条件で兄弟の母親に金を貸し付けていたのだ。借金を返さねば、土地は銀行に取り上げられてしまう。

銀行に搾取される立場の人間が、銀行から奪った金で自由を手にすることは、銀行を快く思っていない町の人々にはきっと痛快でさえあり、当然ながら彼らは銀行の味方はしないのだ。

ウェイトレスも客たちも犯人であるトビーの顔を見ている筈なのに、「別人」だと証言する。弁護士はそれが何らかの違法な金であることを知っていて、なお、トビーに有益なアドバイスをしようとする。この町では 「銀行は貧しいものを食い物にしてゆく憎むべき」存在なのだろう。  

「ずっと貧乏だった。俺の親もその親もだ。まるで病気だ。代々受け継がれる病気だよ。感染するが息子らは無事だ。今はね。」

終盤にトビーの口から発せられた言葉。

格差社会と貧困の連鎖。世代を超えて伝染していく貧しさと言う病は、強硬手段を取らなければその感染を止めることはできない。

逃げ場のない貧困。きっと「アメリカン・ドリーム」は限られた人々のものでしかない。貧困は果たして自己責任なのか?生まれた場所、生まれた家庭に左右され、選択の余地がない場合も多いはず。

寝たきりの母親を一人で看取り、離婚して息子がいるものの、職を失い養育費の支払いも滞るほどに困窮している。自身の人生には「未来」に希望を見出すことのできない絶望と諦めを纏わせながら罪を犯し続けたトビーの言葉からは、息子に未来への夢を残してやろういう想いが伝わってきた。

あと、テキサスの自警団がいきなり銃弾を容赦なく浴びせてくるのが印象的でした。さすが銃社会アメリカ、荒くれ者のテキサスって感じ。「え、これいいの??」って。びっくりしました(;^_^A アセアセ・・・

以上、『最後の追跡』の感想でした♪

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