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『汚名』メロドラマとサスペンスの見事に融合したヒッチコックの傑作です。

本日の映画はヒッチコックの『汚名』

基本のストーリーはサスペンス。しかし、そのテイストはメロドラマ。

惚れた女を他の男に差し出すような真似をしなけれなばらなくなったFBI捜査官と、スパイの娘という汚名を着せられた美しい女性の物語です。

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『汚名』

基本情報

監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ケーリー・グラント/イングリッド・バーグマン
製作:1946年/アメリカ

アカデミー助演男優賞と脚本賞にミネート。(受賞はならず。)

あらすじなど

父がナチスのスパイとして有罪判決を受け、世間から厳しい非難を受ける娘のアリシアは自身も警察に目を付けられ、尾行される日々を送っていた。

連日荒れてヤケ酒を煽る彼女の前に現れた、謎の男デブリン。

泥酔状態でドライブに行こうとするアリシアにデブリンはそっとスカーフを巻いてあげる気の利きよう。そしてアリシアの危険運転にも涼しい顔をしている。

正体の知れないこの男はいったい何者なのか?

気になってきたところで、警察のバイクがアリシアの運転する車に近づいてくる。しかし、デブリンが身分証明書を見せると、警官は何もせずに立ち去ってしまった。

実はこのデブリンはFBI捜査官。

アリシアの父の友人であり、ナチスの残党であるセバスチャンを追っていて、アリシアを利用してセバスチャンの秘密を探ろうと近づいてきたのだった。
二人はセバスチャンとその仲間が潜んでいるリオデジャネイロに向かう。

というお話です。

感想(ネタバレあり)

すご~い、面白かった!
サスペンスとメロドラマが見事に融合しており、二人の関係にもハラハラ。劇中で起きている事件にもハラハラ。とにかくハラハラさせられっぱなし。

イングリッド・バーグマンの美しさもさることながら、愛する女性が他の男と結婚するのを任務として観ているしかできない男を演じたケーリー・グラントの悩みの深い表情も印象に残ります。

恋に落ちる二人。映画史上の残る伝説のキスシーン

リオについた二人はあっという間に恋に落ちる。「売国奴」の汚名を着せられ、酒浸りで、やさぐれていたアリシアがデブリンのため健気にチキンを焼いてあげるほどに、惚れてしまうのだ。

そして、映画史上に残る素晴らしいキスシーンが生まれます。

当時はキスの長さは3秒以内というルールがあり、映画の中で長いキスシーンを描くことができなったそうです。しかしあきらめないヒッチコックはそこで考えた。

1回のキスは3秒を超えてはいけない。ならば短いキスを何度も重ねればよい、と。

リオのホテルで、キスを交わす二人。しかも女性であるアリシアから。デブリンが上司と電話で話をしているのにも関わらず、キス止めない。

キス、キス、キス。会話の合間に、何度も何度もキスをする。

デブリンの横顔を見つめるアリシアの目の熱っぽさ!観ていて恥ずかしくなるくらいの、情熱的なキスシーンです。

短いキスを重ね続けた、その時間はなんと2分半!

描きたいシーンを制限するルールを逆手にとって、ヒッチコックが描きたかった情熱的な二人の愛を見事に描いてしまいました。

さすが、巨匠。発想が普通じゃない^^

本当は止めたかった。

リオについて、アリシアを愛してしまってから、デブリンはFBIの上司からアリシアの任務の詳細を聞かされる。

それはハニートラップ。アリシアの父の友人セバスチャンと親しい関係になって、家に入り込み、彼とその仲間の計画を探らせるというもの。

アリシアを愛しているデブリンはやらせたくないし、やってほしくない。

「彼女には無理だ。」と上司に反論するものの、国を守るという任務の前にはアリシアの存在など取るに足らない…。上司の言うことは正しい。

デブリンには止める権限もなく、そしてセバスチャンがアリシアに愛していたことを知り、かすかに嫉妬も感じずにはいられない。

「まるでマタ・ハリね。何か言ってくれた?」というアリシアに

デブリンは、ただ「決めるのは君なんだ。」というだけ。

「こんなことはさせたくはない。」本当の想いは飲み込むことしかできない。

セバスチャンと親しくなり、関係を結び、遂には妻となるアリシアを思うと、嫉妬で胸をかきむしられるというのに、ダブリンは彼女にそんなそぶりを見せることなく、あえてクールにふるまい続ける。

その苦しい胸の内がわかっているだけに、それを知らないアリシアとの関係性が非常にもどかしく感じてならないのでした。

「本当はやらせたくない。他の男にはいっさいに触れさせたくない。」

そんな本音は絶対に言わない。

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ほかの男と結婚しても、それでも愛し続ける

以前からアリシアに好意を寄せていたセバスチャンは、すっかり彼女にのぼせ上ってしまい、アリシアは彼と結婚することに。

情報を得るためには、結婚くらいたいしたことではない。

という平静を装った顔をしているけれども、デブリンの心中は穏やかではない。

愛する女性が、他の男に抱かれている、その男の妻になる。
止めることもできず、そうさせるしかできない自分がふがいなかったに違いない。

アリシアを「軽い女」だと見下すような発言をした上司を、思わず咎めてしまうほどに、デブリンは、例え他の男のものになってしまっても、アリシアを愛し続けているのだ。

パーティの夜、「鍵」が物語のカギ

ワイン倉庫に何か秘密があるらしいとの情報を得て、パーティの夜にデブリンが倉庫に忍び込んで調べることに。そのために、事前にアリシアはこっそりワイン倉庫の鍵を入手しようとするのだが…。

このあたりのやりとりの描写が素晴らしい。

夫の隙を見て、鍵束から抜き取った鍵。しっかりと手に握り込んだものの、その手に夫が触れてくる。とっさに夫に抱きついてごまかして、鍵を下に落として、そっと足で蹴る。

パーティで嫉妬深い夫が目を光らせる中、デブリンにそっと鍵を受け渡す。俯瞰して二人の姿をとらえた映像から、一瞬だけ手渡しされる鍵がクローズアップに。

とにかく次から次へと緊迫感あふれる演出が、繰り出されてきて、息もつけない。アリシアがスパイであることがセバスチャンにばれるシーンも、もうたまりませんε=( ̄。 ̄;)フゥ

正体がばれた

アリシアの正体に気付いたセバスチャンは、ママに相談。(実はマザコン)このママはアリシアが怪しいと疑っていて結婚にも反対したのですが、恋に燃え上がるセバスチャンは母の反対を押し切って強引に結婚していたという経緯がありました。

このママが怖い。

「自由は与えるけれど、ただし首輪はつけておく。いずれ殺す。ただし、ゆっくりと。」

冷ややかな表情で、さらっと恐ろしいことを言ってのける。

そして、この親子がアリシアにしたことは…。
毎日飲むコーヒーに少しずつ毒を混ぜること、でした。

原因もわからないまま、徐々に体調を崩してゆくアリシアが、その真実に気づいた瞬間。人間のぬくもりをまるで感じることもない冷たい殺意に満ちた視線がはっきりとアリシアをとらえていました。

毒によって衰弱したアリシアはもう逃げようにも逃げられない状態だった。

正面突破

連絡が途絶えてしまったアリシアのことを心配する様子もない上司たち。しかし、デブリンは「何かがおかしい」と気づき、単身でセバスチャンの屋敷に乗り込んでゆく。

そこで衰弱しきって動くこともできなくないアリシアを見つけ、抱きかかえて、脱出しようとするが、セバスチャンとその仲間たちに気付かれてしまう。

アリシアがスパイであることが知れれば、セバスチャンは仲間たちに粛清される。だからこそ、仲間たちに内緒でアリシアを殺そうとしたわけですが、それが知られたらもう命はない。

それがわかっていて。

デブリンは「病院に連れて行く。」とアリシアを夫の目の前で、抱きかかえて外に連れ出そうとする。

セバスチャンはそれを止める術を持たない。訝しむような仲間たちの視線が注がれているから。

デブリンは敵の目の前を、隠れることもなくアリシアとともに正面玄関から出てゆきます。

その後、自分がどうなるのか。

過去に粛清された仲間たちがどうなったかを知り尽くしているからこそ、セバスチャンは自分も車に乗せるようにデブリンに懇願するも、デブリンは彼を置き去りにしてそのまま車を発車させる。

それは、愛した女を妻にした挙句に、殺そうとした男への復讐だったのかもしれない。

呆然と車を見送るしかないセバスチャンを、屋敷の中から仲間たちが呼んでいた。

ラストはまるでお姫様を奪還する王子様のごとき様相でした。残されたセバスチャンがどうなかった…描かれませんでしたが、おそらく粛清されたに違いありません。今まで彼がそうしてきたように容赦なく…。

ちょっとかわいそうな気もしないでもない、セバスチャンを演じたのは、クロード・レインズ。この作品ではアカデミー助演男優賞にノミネートされました。

まとめ

飲酒運転するときに髪の毛が視界にかかるシーン。

酔っぱらったアリシアの視界のゆがみ、デブリンが逆さに見えるシーン。

毒を盛られて意識を失うアリシアの、白くゆがんでゆく視界。

アリシアの視点から見える世界にも様々な演出が施されていました。

そこかしこに、名匠の冴えた演出が光りました。

鍵を巡る一連のやりとりも印象的でしたが、ワイン倉庫での証拠探しと、誰かがそこにいたことをセバスチャンが気づくシーンも素晴らしかった。

これはDVDを買ってぜひ手元に置いておきたい作品かも。今まで観てきたヒッチコック作品の中でも、かなりお気に入りの作品となりました。

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