第89回(2017年)アカデミー賞で8部門にノミネートされ、音響編集賞を受賞した作品です。ずーっと公開を楽しみに待ちわびていました。
ドゥニ・ヴィルヌーヴは最新作をチェックしたくなる監督の一人。
『灼熱の魂』で受けた衝撃が凄まじく…。クライマックスのとあるシーンで、心を握りつぶされそうな強い衝撃を受けました。
▼ずっしり重い映画がお好みの方には絶賛オススメ!素晴らしい作品です。
↑本っ当に重いので観るのは覚悟が必要です!
そんなヴィルヌーヴの最新作『メッセージ』
結論から言いますと、大好きな作品でラストで号泣してしまいました。
私が好きな映画(人生のマイベスト10に入ります)にジョディ・フォスター主演の『コンタクト』という作品があります。『メッセージ』は『コンタクト』が好きな方にはぜひ見て欲しいなぁ。
本作『メッセージ』も宇宙の謎を描きつつ、人間の人生、生きる意味、人を愛する意味…深いテーマを扱った素晴らしい作品でした。
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『メッセージ』
基本情報
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:エイミー・アダムス/ジェレミー・レナー/フォレスト・ウィテカー
製作:2016年/アメリカ
監督は『灼熱の魂』『プリズナーズ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ。
『ブレードランナー』の続編である『ブレードランナー2049』が今年公開を予定されています。
『ブレードランナー』は今さら中途半端な続編を作られても…と当初は続篇は気乗りしなかったのですが、監督がヴィルヌーヴだと聞いて俄然楽しみになってしまいました。
『砂の惑星』のリメイクも監督するのではと言われていますね。これもファンが多くてリメイクは難しい作品ですが、ヴィルヌーヴが監督なら…と期待が増しますね^^
▼原作はテッド・チャンの『あなたの人生の物語』
主演のエイミー・アダムスは好きな女優さんの一人。『魔法にかけられて』で大ブレイクしました。あれから10年が経ちました。
あらすじ
「プリズナーズ」「ボーダーライン」などを手がけ、2017年公開の「ブレードランナー 2049」の監督にも抜擢されたカナダの鬼才ドゥニ・ビルヌーブが、異星人とのコンタクトを描いた米作家テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」を映画化したSFドラマ。ある日、突如として地球上に降り立った巨大な球体型宇宙船。言語学者のルイーズは、謎の知的生命体との意思疎通をはかる役目を担うこととなり、“彼ら”が人類に何を伝えようとしているのかを探っていくのだが……。http://eiga.com/movie/85583/
感想(ネタバレあり)
まず冒頭のエイミー・アダムスの演技に心を掴まれてしまった。言語学者のルイーズ・バンクスが幼い娘を病で亡くしたことが描かれる。
「戻ってきて。」
同じ言葉であっても使われるシーン、使う人の心情によってここまで感じ方が変わるのですね。
生まれたばかりの赤ちゃんが看護師さんにちょこっと連れて行かれる時に向けた「戻ってきてね。」は弾むような未来への希望に満ちているのに対し、死んでしまった娘にかけた「戻ってきて。」は慟哭の叫び。
つくづくエイミー・アダムスの表現力の豊かさに感心してしまい、この冒頭のシーンですでに泣いていました。(←早っ!!)
うーん、泣いてしまうんですよ。幼い子供が亡くなる、子供を亡くす。経験したわけではありませんが、想像するだけでダメなんです…。
エイミー・アダムスは
- 『ザ・ファイター』
- 『ザ・マスター』
- 『アメリカン・ハッスル』
など、これまでも何度もアカデミー賞にノミネートされている実力派。
本作でもノミネートされるのではないか、と評判が高かったのですが、残念ながらノミネートは逃しました。大好きな女優さんなので、もうそろそろオスカー獲ってほしいなぁ。
ルイーズは湖のほとりの家で、一人で静かに暮らし、大学で言語学の教鞭を取っている。
いつもと同じ、代わり映えのないある日、”それ”はやってきた。宇宙からやってきた飛行物体。全長450メートルもある巨大な細長い楕円形の宇宙船が世界各地に現れた。
全部で12体。”殻”と名付けられる謎の宇宙船。(日本の北海道にもやってきました。 )
▼外観は大きなばかうけ。
出典:http://eiga.com/movie/85583/gallery/7/
言葉のような”音”を発する生命体が一体何を言っているのか、軍から解読を依頼されたのがルイーズだった。(依頼をしにルイーズのもとを訪れるのがフォレスト・ウィテカー演じるウェバー大佐。)
そして同じく軍に協力することになったのがジェレミー・レナー演じる理論物理学者のイアン・ドネリー。イアンは物理学者らしく見事に発想が数学や物理の分野に偏っていて、初登場のシーンから微笑ましくて好ましい人物だった。
ルイーズがどうやって”宇宙人”とコミュニケーションを取っていくのか。その過程がとても興味深かった。
よく考えることがあったのです。
「初めて未知の言語に触れた人は、どうやってその言語を理解したのだろう?」と。
現在は辞書があり、すでにその言語を習得した専門家もいるからその人から習えばいい。でも全く未知の言語を最初に接したした人はどうしたの?と。
出典:http://eiga.com/movie/85583/gallery/3/
ヘプタポッドと名付けられた宇宙人の発する音に意味がないことに気付いたルイーズはホワイトボードに文字を書いて見せる。(ヘプタポッドはギリシャ語でヘプタは数字の7、ポッドは足という意味だそうです。)
ルイーズが最初に見せた言葉は「人間」。自分たちが「人間」という種であることを理解させたうえで、「ルイーズ」という「個」の存在を認識させる。ヘプタポッドに対しても「あなた方」「あなた」という全体と個の概念をわけて認識しているかを確認する。
その言葉が断定なのか質問なのか。時制の概念はどうなっているのか。基本的な言語の構造をゆっくりゆっくり手さぐりで手繰り寄せるようにして少しずつ意味を解析していく。
きっと大昔に未知の言語に遭遇した人々もこんな風にしたのかもしれない、と思った。
印象的だったのはカンガルーのエピソード。初めてアボリジニに遭遇した人が「あの動物はなんだ?」と質問したらアボリジニは「カンガルー」だと答えた。人々はあの動物の名前がカンガルーなのだと思い込んだけれど、実は彼らは「わからない。」と答えただけだった。
質問の意味を取り違えれば、表面的には会話が成立しているように見えても実際にはコミュニケーションが成立しない。
こういうのは私たちの日常生活でも起こりうるコミュニケーションの行き違いなのでハッとさせられました。相手を真に理解しようと思えば、1つ1つの言葉を大切にしなければならないのですよね。
同じ言葉を使っていても相手が同じ意味で使っているとは限らないし、同じ言葉でも使われる場によってネガティブにもポジティブにもなりうる。言語が違えばなおさら、相手を理解するのは困難ですよね…。
彼らが使う言語は「表意文字」というもの。その文字自体が意味を持つ言語。
白い靄のなかにから触手?足?を伸ばし、黒い煙を噴出させて文字を中に浮かべさせてコミュニケーションを取る。浮かび上がった1つの文字がさまざまな意味を持っている。
出典:http://eiga.com/movie/85583/
言語学者にしてみれば珍しいことではないのかもしれないけれど、あの黒い輪が様々な意味が込められた複雑な言語なのだと思うと不思議で。
言語というと自分たちが使っている言語がすべてのように思ってしまうけれど、根本的な構造と概念が全く異なる言語もありえるんだなぁとしみじみと感心してました。
白い靄のなかに抽象画のような文字が浮かぶシーンはとても幻想的で美しいです。ちょっと不思議な奇妙な音楽もあっていました。
ちなみに本作で音楽を担当しているのはヨハン・ヨハンセン。『プリズナーズ』『ボーダーライン』『メッセージ』『ブレードランナー2049』とヴィルヌーヴと幾度も一緒に仕事をしています。
出典:http://eiga.com/movie/85583/gallery/5/
使う言語で思想が形成される。
印象的なフレーズが出てきました(←完全に正確ではないと思いますがこんなニュアンスだったと思います)。
言語には様々な特徴があり、その言語を使うことによって”言語”から影響を受け、思想を形成されていくのではないか、ということ。
強くて意味のはっきりした言葉を使えば人はそのような性質を持つようになるし、曖昧でぼんやりした言葉を使うと人の性質もそのようになる。そんな感じかな。
日本語は曖昧ではっきり断定するのと避けるような言い回しが多いですが(いわゆる玉虫色)、日本人ははっきり自己主張するよりは周囲との協調性を大事にするところがありますから、なんとなくわかる気がします。
少しずつヘプタポッドの言語を理解するうちに、ルイーズは不思議な夢を見るようになっていく。
出典:http://eiga.com/movie/85583/gallery/6/
ヘプタポッドの言語から影響を受け、”彼らの言語で見る夢”は、色鮮やかに死んでしまった娘の姿を姿をルイーズに見せる。
必死に2体のヘプタポッドとコミュニケーションを取ろうとするルイーズたちだが、事態は徐々に緊迫していく。得体の知れないものを恐れるのは動物の本能で、ヘプタポッドが人類に攻撃を仕掛けるのではないか、と人類は不安に駆られ、世界各地で暴動が起き、先制攻撃を主張する者も出始めた。
「あなたたちの目的は何なの?」
ルイーズの問いにヘプタポッドは答える。
「武器を提供する。」
そのメッセージは一気に人類の不安と恐れを増幅させ、中国は武力攻撃を宣言し、他国もそれに追随。これまでは協力し情報共有をしていた人類はバラバラになり、アメリカでも不安に駆られた兵士たちが暴走し、”殻”に爆薬をしかけるという事件が発生。殻からの反撃を恐れた政府から軍に全面撤退の命令が下る。
時間切れがすぐそこに迫るなか、たった一人で殻に乗り込んだルイーズが知った彼らの真の目的とは…。
「言葉とは争いを終わらせることのできる武器である。」
たしかこんな言葉だったでしょうか。ヘリコプターの中でイアンが読み上げたルイーズの著書の序文に書かれた文言。そう、彼らはたしかに人類に武器を与えにやって来た。
「言葉」という武器を。
「言語で思想が形成される…。」
時間の概念がない、時の流れに囚われることのないヘプタポッドの言語を理解した時、ルイーズはその言語に影響を受け、時間の概念を飛び越えることができるようになったのです。
挿入されたフラッシュバック。ルイーズが見た夢。幼い娘との日々。あれは過去ではなく、これから起きること。
そう、冒頭で描かれた幼い娘が生まれ、死ぬシーンはルイーズの過去に起こった出来事ではなく、これから起きることだったのです。まったく予想していなかった展開に目を見開いて画面にくぎ付けになりました。
未来を見る能力を得たルイーズは、まさに今これから”殻”に攻撃をしかけようとしていた中国の首脳シャン将軍の説得に成功し、それを見届けるかのように殻はいっせいに姿を消す。
なぜルイーズがシャン将軍の説得に成功したか?
それはルイーズが未来で知ったシャン将軍のプライベートの携帯電話の番号に電話をし、未来で出会ったシャン将軍から教えられた「妻の臨終の言葉」を伝えたから。
このあたり、未来と現在が入り混じりながら謎が明かされていくのだけれど、それが幻想的で美しくて。
ヘプタポッドが人類に与えた武器。それは人類が互いを理解し合うことに有益な「人類共通の言語」
それだけで世界が平和になるのかと言えば、自信はないけれど、コミュニケーションの行き違いがなくなった世界は今よりも優しい世界になっているような気がする。いや、そうであってほしいかな。
各国、専門家を動員してヘプラポッドの言葉を解読しようとするのですが、中国が麻雀を使ってヘプタポッドとコミュニケーションを取ろうとしているらしい、とほのめかされるシーンがありました。
しかし麻雀は対戦ゲームで戦いや対立の概念を持つものだから、その概念を持って解読された言葉は対立的なものになる、とルイーズは危機感を抱く。
中国だけじゃなく各国ともそれなりに解読に成功していているのだけど、大枠は同じでも意味するところがちょっとずつずれていたりして。そのちょっとした”ずれ”が人類の不安を煽り、疑心暗鬼に陥らせる。武器を手に入れた国が攻撃をしかけるのではないか、と人類同士でも疑い始める。
共通言語を手に入れたことで、こういう行き違いは大幅に減少するのでやっぱり平和になるのかな。ふと、「バベルの塔」を思い出した。
かつて1つの言語を話していた人間たちは「天まで届く塔」を作ろうとして、神の怒りに触れて言語がバラバラにされてしまったのではなかったか。人類はバベルの塔以前に戻ったのかもしれない。
ヘプタポッドは3000年後に人類の助けが必要になるから、今、助けに来たのだと言う。彼らにはこのままでは人類が戦争で滅びてしまうという未来が見えていたからかもしれない。
出典:http://eiga.com/movie/85583/gallery/4/
ルイーズはイアンに聞く。
「未来がわかっていたとしたら選択を変える?」
「いや、もっと想いを相手に伝える。」
この瞬間にルイーズはたとえ生まれてきても死んでしまう命だとしても、それでも娘のハンナをこの世に産もうと決めたのです。これからイアンとの間に生まれてくる、最愛の娘を。
幼くして死んでしまう娘だからこそ、生きている間に存分の愛情を注ごうと決めて。この時のルイーズの横顔はすでに母の顔をしているように思いました。
娘の名前はハンナ=Hannah
前から読んでも後ろから読んでも同じ。終わりも始まりもない永遠の時間を表すような名前。冒頭で、彼らに出会うまでは時の流れに囚われていたけれど、彼らに出会って時の流れから解放された、というようなことをルイーズが語っていたように記憶しています。
時に終わりも始まりもない。ただそこにあるだけ。人間の命も同じように永遠なのだと、ハンナの名前がそう語っているように思いました。
時間の流れに囚われなくなったのであれは、未来だけではなく過去も囚われることもなくなくなる。
そうであれば過去は失われた時間ではなく、すぐそばにあるもの。死んでしまった人もそばにいる…。そういう意味なのかな、と思いました。
とても優しいお話でした。
以上、『メッセージ』の感想でした。
本作は2017年イギリス・エンパイア誌が発表した『史上最高の映画100』に選出されています。
>>【おすすめ映画】『史上最高の映画100本』絶対面白い!古今東西の名作映画たち(イギリスエンパイア誌選出)
その他気になったこと。
非ゼロ和ゲーム
ゼロサムゲームという言葉は聞きますが、非ゼロ和ゲームという言葉は初めて聞きました。難しい概念でその場ではすぐに理解できなかったので調べてみました。
非ゼロ和ゲームとは…
複数の人が相互に影響し合う状況の中において、そのなかの一人が利益を得たとしても誰かの損にはならないこと。
協力し分かち合えば皆が得をすることがある、そんな状況でしょうか?
宇宙人から得た武器=言葉を分かち合うことで世界が一つになった、みたいな…。利益を奪い合い、「勝ち負け」しかない世の中よりも生きやすい世界のような気がしますね。
アボットとコステロ
2体のヘプタポッドに付けられた名前。1950年代に活躍したアメリカの2人組のコメディアンの名前らしいです。
二人の番組はかつて日本でもテレビ放送されていたらしいですよ。さすがに私は生まれてないですが、うちの親くらいの世代の人なら知ってるのかな…。
ばかうけじゃなかった。
殻と呼ばれていた宇宙船のデザインはばかうけがモデル…ではなく、小惑星エウノミアから考えられたそうです。
エウノミアが「奇妙なたまごのようなかたち」をしていて、ヴィルヌーヴ監督がその形に心惹かれたそうです。
太陽系の小惑星のひとつ。火星と木星の間の軌道を公転しており、小惑星帯の中では8から12番目に大きい天体である。エウノミア (小惑星) – Wikipedia
ちなみにエウノミアはギリシャ神話の秩序の女神で、ゼウスとテミスの娘の一人です。
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