突然ですが、ゾンビが好きです。
中学生の頃に観た、巨匠ロメロの『ゾンビ』に衝撃的を受け、すっかりハマって○年になります。
最近は一口にゾンビ映画と言っても、様々なバリエーションのゾンビが描かれるようになりました。
この作品もちょっと変わり種のゾンビもので、激しいバトルが繰り広げられる作品ではなく、ヒューマン・ドラマに近いです。グロいシーンも少なめ。
ゆえに、パッケージは詐欺のような気もいたします…。
このパッケージだと、どう観てもお姉さんがゾンビの群れと戦うお話のように見えちゃいますよね^^;
『ゾンビ・リミット』
基本情報
監督:マヌエル・カルバージョ
出演:エミリー・ハンプシャー/クリス・ホールデン
製作:2013年/スペイン・カナダ
ざっとあらすじなど。
ウィルス感染すると狂暴化して人々に襲い掛かるという病が発生し、多くの感染者を出したが、人類はその英知で以て治療薬の開発に成功した。しかし病は完治することはなく、体内からウィルスが消えることはない。病から復活した人々は「リターンド」と呼ばれ、彼らはウィルスの増殖を抑えるために、ワクチンを打ち続ける必要があった。
ワクチンの材料はリターンドの死体。感染者が出なければ、ワクチンは作れない。感染を封じ込めに成功している段階においては、ワクチンを製造することができないというジレンマに陥り、ワクチンの在庫が尽きる日も近づいていた。
ワクチンがなければ、リターンドたちは再びゾンビ化してしまう…。
ヒロイン・ケイトはリターンドの治療と研究に尽力する医師。その恋人アレックスはリターンド。ケイトはアレックスのために、こっそり病院関係者から金でワクチンを横流ししてもらい、在庫が尽きる日にそなえてストックしていた…。しかし、そのワクチンを巡って、思わぬ争いが起こることになる…。
以下はネタバレをしています。
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感想(ネタバレあり)
対立する感染者=リターンドと非感染者
リターンドはワクチンを注射し続ける限りゾンビ化はしない。しかし、リターンドの血にはウィルスが含まれるので、何かのきっかけで感染源となりえます。
それゆえ、リターンドたちを隔離せよ、と主張する人々がおり、さらに過激な一派は始末せよ、と主張して、その対立は深刻化していた。ワクチン研究や治療には多額なお金がかかる。果たしてそこまで金を費やす必要があるのか?と疑念を抱く者もいた。
ワクチンの在庫が尽きるかもしれない。
という噂が流れ始めると、対立は激化。病院前では連日デモが繰り広げられ、リターンドたちが襲撃を受ける、といった事態になっていた…。ついには病院が襲撃され、子供を含めたリターンドたちが抹殺されるという悲劇まで起こる。
難しい事態です。確かに怖い。
- リターンドが怪我をして、血を流したら?
- それに触れてしまったら?
- 何かしらの理由で注射をしそびれたら?
アウトです。
厚生省はリターンドであることの証明書を持たせ、彼らを管理してるけれども、やはり「事故」はたびたび起き、犠牲者が出ている。ホームレスの感染者は野放しだし、自ら治療を放棄する者もいる…。
▽寄り添うように生きる、ケイトとアレックス
http://eiga.com/movie/80347/gallery/3/
愛する人だったら、リターンドになっても生きていてほしい。
しかし、赤の他人のリターンドなら?
できればあまり関わり合いになりたくない…。そう思ってしまうのが人情ではないでしょうか…。私はそう。よほど近しい身内や友人でない限り、近寄りたくないって思ってしまう。
だからこそ、リターンドたちは自分がそうであることを隠し、ひっそりと生きています。この物語は、ゾンビとのバトルではなく、愛する人を救うために、他人を犠牲にしようとする人間の業の深さ、残酷さみたいなものを描いています。
裏切はすぐそこにあった
アレックスは、親友夫妻のジェイコブとアンバーに自分がリターンドであることを打ち明ける。拒否されることも覚悟してのことだったけれども夫妻は、変わらずアレックスを受け入れてくれる。過激派にリターンドたちの名簿が奪われ、次々にリターンドたちが襲撃される緊迫した状況の中、ジェイコブとアンバーは自分たちの別荘にケイト&アレックスを匿ってさえ、くれる。
しかし、実はこの親友夫婦こそが、身近にいた裏切り者だった。
病院関係者から薬が大量に入手できたという連絡が入り、薬を受け取るためにケイトが訪ねると…。病院関係者はすでに殺されており、死体の手には見覚えのあるネイルの施された爪が残されていた。それはアンバーの爪。
事態に気付いたケイトがアレックスに電話すると、ジェイコブたちは別荘から消え、ワクチンも1本だけ残して、すべて消えていた。アンバーはリターンドだった。
「自分のためにならしなかった。妻のためだ。」
ジェイコブはアレックスに泣きながら謝罪する。
そう、大切な誰かのためなら…。
自分のことなら諦められても、愛する人のためならば…っていう人は多いんじゃないかな。自分なら覚悟を決められても大切な人を失うのはいや…。残されるのはいや…。ゾンビ化した愛する人にトドメを刺すなんて、辛すぎる…。
大切な人の死を覚悟したうえで、なお、倫理的に正しくいられる人の方が、きっと少数派なんだろう。私は正しい行動を取れる自信はない。愛する家族のためなら、誰かのワクチンを奪ってしまうかもしれない。
ケイトたちだって、アンバーと変わりない。横流ししてもらった薬は、誰かの明日につながるもの。誰かの未来を奪っているのと同じこと…。
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希望を打ち砕かれて
この映画の、さらに残酷なところは、親友夫婦の裏切という絶望の後に、再度希望を与えておいて、それを叩き潰すところ…。
勤めていた病院の院長に頼み込んで、ワクチンを入手したケイトだけれども、そのワクチンはリターンドの子を持つ親に奪われそうになり、争っているうちにすべて割れてしまう、という…。
もうケイトに残された手段はない。
ホームセンターで鎖や首輪を買うアレックス。それはたとえ自分がゾンビ化しても、誰かを傷つけないために、己を捕縛するために使うもの。アレックスは自らを壁に縛り付ける。
The Returned (2013) – Photo Gallery – IMDb
刻一刻とアレックスがゾンビ化するときが近づいてくる。ケイトはアレックスに寄り添い、そして「リミット」が訪れた時に銃でアレックスを撃ってすべてを終わらせる。
愛する人を失い、呆然と外に出るとそこでは花火が打ち上がっており、連絡が取れないケイトを心配して訪ねてきた院長から衝撃的な知らせがもたらされる。
数時間前に新型ワクチンが完成し、すでに配布が始まっているのだという…。
知っていればアレックスを救えたのに。そうとは知らずにアレックスを殺してしまった。
後悔してもしきれない。変えようのない残酷な現実を突き付けられ、ケイトは泣き崩れるしかなかった…。
このオチって、
有名な「あの映画」と同じなので、ちょっと賛否両論はあったようなんですが…。(何の映画かは言えませんが…あれね、あれ)
それでもケイトの慟哭が胸に迫ります。この救いようのなさ、とても好み。
一方、
「あの二人も間に合ったわ。」
なんて、すっかり他人事のジェイコブとアンバー。
間に合ってない!全然間に合ってませんからゴ━━━(#゚Д゚)=○)`Д)、;’.・━━━ルァ!!
と、思いました(笑)
ワクチンがあと1本あれば…。もしもケイトと院長が連絡取れていれば…。
悲劇か、奇跡かの違いは、ほんの些細なすれ違いだったりする…そんな絶望と無常感が好きな作品でした。
数か月の時間が流れ、おなかにアレックスの子を宿したケイトが、ジェイコブ&アンバーの写真を前に何やら企んでいるらしい、意味深な笑みを見せるところで、映画は終わり。
まとめ
感染者と非感染者の対立は、極端とはいえ現代社会にも似た構図はありうることで。
人間は人権を保障され、自由であるべきだけれども、そうすることで「リスク」が発生することもある。
リスクを恐れる人々は「管理せよ!」「排除せよ!」と主張するけれど、そうしてしまうと、やがてがんじがらめに管理&監視されてしまう世の中になってしまう。そのほどよいバランスを見つけ、保つことはとても難しいものだと思う。
ラストのケイトのたくらみ顔…。
新しい命のために、そんなことは考えないで(T_T)
と、言いたいところなのですが…。
両親が目の前で感染して死んだ過去を持ち、それゆえにリターンド研究と治療に尽力してきたケイトは襲撃者に臆することなく「ゾンビではない。リターンド。」だと訂正する強い信念の持ち主。
そんなケイトを大きく変えてしまうほど、アレックスの死とジェイコブたちの裏切は悲劇だったということで。草の根分けてでも探し出して復讐してやりたくなるケイトの気持ちもわかります。なんともやりきれない。ゾンビがわらわら出てきて、がんがんやっつけまくるバトルものも好きですが、たまにはこういう切ない系のゾンビものもいいものですね(・∀・)
以上『ゾンビ・リミット』の感想でした。
ちょっと変わったゾンビ映画を紹介します
以下、少々変わり種のゾンビ映画のご紹介です。
▽本作。切ないヒューマンドラマ系ゾンビ映画
▽人間とゾンビの障害のある恋。ラブストーリー系ゾンビ映画
▽女の子の変身物語系ゾンビ映画。
スリーデイズ・ボディ 彼女がゾンビになるまでの3日間 [DVD]
▽巨匠ロメロの傑作ゾンビ。
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