本日の映画は『サラエボの花』
ボスニア紛争によって人生を大きく変えられてしまった女性が、心に傷を負いながらも娘に母としての愛を注ぐ姿が描かれます。
母の強さ、深い愛情が胸に染みる映画ですが、彼女に起こったことの残酷さ、それが現実に起きたことだという事実に、胸を切り裂かれるような想いがします。
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『サラエボの花』
監督・出演・製作 基本情報
監督:ヤスミラ・シュバニッチ
出演:ミリャナ・カラノヴィッチ/ルナ・ミヨヴィッチ
製作:2006年/ボスニア・ヘルツェゴビナ/オーストリア/ドイツ/クロアチア
2006年ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作品。
この作品を作り上げたのは32歳の女性監督。彼女もまた、紛争を生きた一人なのだそうです。
以下は結末に言及しています。
感想(ネタバレあり)
ボスニア紛争の悲劇
ボスニア紛争の際、医学生だったエスマは収容所に入れられ、繰り返し性的暴行を受け続ける日々のなかで、妊娠をしてしまう。
やがて紛争は終わり、エスマは貧しい生活の中で生まれた娘サラを必死に育てていた。
ボスニア紛争とは。
ユーゴスラビアから独立したボスニア・ヘルツェコビナで起こり、1992年から1995年まで続いた紛争です。
紛争があったのは知っている。しかしエスマのように、収容所で組織的に性的暴行をされた女性たちがいたことをこの映画を観て、初めて知りました。
民族浄化の手段のひとつで、女性たちを妊娠させて、産むしかない状態になってから解放するんだそうです。
想像を絶する地獄。あまりのおぞましさに言葉も出なかった。
本作では紛争の生々しいシーンは出てこないのですが、戦争の悲惨さは十分に伝わってきます。元・医学生で、優秀な女性だったエスマがナイトクラブのウェイトレスや裁縫仕事の掛け持ちして、日々の生活をぎりぎりで乗り切っているは胸が痛みます。
もしも戦争さえなければ…、今頃は医師として活躍していたかもしれません。
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母娘、真実を生きていく。
エスマと同様の境遇にある女性たちは多い。
被害者の集団セラピーで、苦しみを語る女性たちが出てくるシーンがあります。紛争が終わっても、彼女たちは苦しみ続けている…。
エスマは混雑した路線バスで、男性の体が押し付けられることが耐えられず、バスに乗っていられない。ナイトクラブで女性の胸に触る兵士の姿におびえ、ロッカーに駆け込み、安定剤を飲む。紛争が終わっても、彼女の受けた傷はまったく癒えてないのです。
娘のサラには父親はシャヒード(殉教者)だと伝えてある。
12歳のサラに、真実はとても言えるものではない。会ったこともない父親の話を聞きたがり、父と髪の毛の色が自分と同じだと聞いて、嬉しそうな表情を浮かべるサラを、エスマはむりやり貼り付けたこわばった笑顔で見つめるしかない。
ある日、とうとうサラが本当のことを知る日がやって来る。いつか伝えなければならないとしても、それはもっと別の機会に別の伝え方をするはずだったに違いない。
しかし、反抗期真っただ中のサラにとって、父親についてはっきりしないエスマは苛立ちをぶつける対象となり、思いもかけない手段でエスマを問い質す。動揺したエスマは、感情的に真実を告げてしまうのだ。
まだ小学生の少女には、どれほど過酷な真実だっただろう?自分の父が、母に何をしたこと。自分は父が母に行った、悪魔の仕打ちの結果、この世に生まれたという現実…。大人でも耐えられそうにない重さ。
それでも、サラはその重い真実を受け止める。たった、12歳の幼い少女が。
サラに打ち明けたことで、エスマの中でも何かが変わった。セラピーに通いながらも、自分の話をすることを頑なに拒んでしたエスマが、ようやく重い口を開き、自分の話を始める。
生まれてきてほしくないと思った娘、見るのも辛かった娘を、愛しいと感じた瞬間、尊い母の愛情が溢れだした瞬間のことを…。
もしも私がエスマの立場だったら、生まれてきた娘を愛することができるのだろうか?考えても、感がても私には愛せる自信がありません。育ててゆく強さを、持てるかどうかもわかりません。怒りと憎しみをぶつけ、虐待してしまうかもしれません…。
もしも私がサラの立場だったら…。ただただ、自分を呪うでしょう。自分自身の中に流れる父の血を、憎悪することでしょう。自分自身の存在を肯定して、生きて行く自信はありません…。
だからこそ、それらを乗り越えようとしている、エスマとサラの絆には深い深い感動を覚えます。
母娘に少しでも平穏な日々が訪れますように、願わずにはいられません。
▽『母の愛』を描いた作品、他にもたくさんあります。
参考>>>母の愛を描いた映画。包み込むような愛、深い愛。愛の形はさまざまです。
以上、『サラエボの花』の感想でした♪
こちらもボスニア紛争を描いた作品。紛争下、治安が悪化した現地で行われる人身売買の実態をリアルに描いた作品。
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