第90回アカデミー賞で、作品賞を含む、7部門でノミネート。監督をつとめたマーティン・マクドナーは脚本も担当し、脚本賞でオスカーにノミネートされました。
俳優陣の演技の評価も高く、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、ローリー・メトカーフ、フランシス・マクドーマンドの4人が助演男優賞・女優賞にノミネートされています。
フランシス・マクドーマンドは主演じゃなくて、助演なんですね!そこがちょっとびっくりです(登場シーンも一番多いし、主演の印象だったので)
『スリー・ビルボード』
監督・出演・製作 基本情報
監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド/ウディ・ハレルソン/サム・ロックウェル
製作:2017年/イギリス
あらすじ
2017年・第74回ベネチア国際映画祭で脚本賞、同年のトロント国際映画祭でも最高賞にあたる観客賞を受賞するなど各国で高い評価を獲得したドラマ。米ミズーリ州の片田舎の町で、何者かに娘を殺された主婦のミルドレッドが、犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、解決しない事件への抗議のために町はずれに巨大な広告看板を設置する。それを快く思わない警察や住民とミルドレッドの間には埋まらない溝が生まれ、いさかいが絶えなくなる。そして事態は思わぬ方向へと転がっていく。娘のために孤独に奮闘する母親ミルドレッドをフランシス・マクドーマンドが熱演し、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェルら演技派が共演。「セブン・サイコパス」「ヒットマンズ・レクイエム」のマーティン・マクドナー監督がメガホンをとった。出典:映画.com
感想(ネタバレあり)
ミルドレットの娘、アンジェラは7か月前に何者かに殺された。レイプされて、火をつけられる、という残忍極まりにない方法で。
進展しない警察の捜査にいらだちを感じた、ミルドレットはアンジェラが殺害さてた道路の脇に、抗議のための3枚の看板を立てる。
3枚の看板=タイトルのスリービルボードの意味です。
出典:http://eiga.com/movie/87781/gallery/
ほとんど、前知識を入れずに観たので、えげつない事件の真相が明らかにされているサスペンス的な作品かと思っていましたが、そうではなく。
先のストーリーをなんとなく予測しながら観ましたが、その予測がことごとく外されてしまう、という予想もつかない展開を見せてくれる作品でした。
あ、こう来るのかな?と思えば、そうじゃない。あ、そう来るのか、と思えば、それとも違う。
残忍な殺人事件と、その事件の関係者の人間関係と怒り、やりきれなさ、軋轢を描いているのに、なぜかふと笑いがこぼれてしまったり、思いがけない人物の優しさに触れて、胸が熱くなったり。
観客の思惑を交わしてずらす。そして思いがけない場所へ導いていく。
出典:http://eiga.com/movie/87781/gallery/2/
脚本の巧みさと、出演陣の演技力の見事さで、圧倒されっぱなし。
ラストまで観ると、救いがないようで、ほのかな希望があるのだけれど、その希望をもたらしてくれるのが、映画が始まってから終盤まで、ほぼ憎らしさといら立ちしか感じさせなかった人物なのだから、すごい。
あのラストシーンの後、彼らは本当に「それ」を実行したと思いますか?私は、やっぱりギリギリ踏みとどまったんじゃないかと思うんですよ。でも、それだと「想像通り」なので、マーティン・マクドナーは、そのラストシーン後の想像も裏切ってくれるのかもしれない。
以下、思ったことを箇条書きで。
・ウッディ・ハレルソンは実は悪人だと思っていた。
警察署長のウィロビーを演じたウッディ・ハレルソン。「なぜ?ウィロビー署長?」と、看板に名前入れられて名指しで、ミルドレッドに批判された人物ですが、ハレルソンは他の作品では、常軌を逸した役を演じることが多いので、キャストを見た段階で、事件の真相を知る黒幕の一人、だと思い込んでいました。
違ってました。疑ってごめんなさい。
人格者として町民たちに慕われ、ガンで余命わずか。その事実は町民たちも知っており、看板の件に関してはウィロビーに同情するものが多く、ミルドレッドには批判的なものが多いんですよね。
・それでもやっぱり実はウィロビーは悪人だと思っていた。
ウィロビーが町の人たちに好かれていることはたっぷり描かれているのに、それでも裏の顔があるのではないか、と疑っていました(苦笑)手紙を残して、自殺した時は、「やっぱり!!」と思ったのですよ。その手紙には、事件の真相が書いてあるに違いないって。
・人種差別主義者でマザコンのディクソン
登場した瞬間から、イヤなヤツなんですが、彼がウィロビー署長の病気ことをミルドレッドに語るとき、ふと感情が大きく揺れるシーンがあったんですよね。あの瞬間の演技が好き。高圧的で、見下した態度を崩そうとしないディクソンが見せた一瞬の「人間らしさ」が印象的。署長が死んだ後に「気絶」したらしいし、心から慕ってたんだろうな。
・署長の遺志を継いで、立派に任務を果たしてみせると、バックに感動的な音楽を背負いつつ、決意したディクソンが、ようやくまともな景観になるのかと思いきや、やったことは看板屋のお兄さんをぶちのめして、窓から放り投げるという暴挙。
しかもその一部始終を目撃していた通りすがりの黒人が、実は新署長だったという運のなさ!思わず、笑ってしまった。
・犯人サム・ロックウェル説
サム・ロックウェル演じるマザコンで人種差別主義者の警官ディクソン。先ほど書いたようにちょっと人間らしさも垣間見せるディクソンですが、サム・ロックウェルといえば「グリーン・マイル」。あのイメージがあるので、少女をレイプして殺す=犯人サム・ロックウェル説がむくむくと湧き上がっておりました。
だから、ウィロビーがディクソンに手紙を残していた時、「ははぁ!やっぱり真相(=ディクソンが犯人)を知っていて、手紙にお前が犯人だ!的なことが書いてあるんだな。」と思ったら、全然違っていた苦笑
むしろ「イイ話」で。登場した瞬間から、イヤなヤツで、頭が悪くて、警察の権威をかさに着てエラそうな振る舞いを見せつけていたディクソンの「本当の姿」について書かれたもので、ディクソンを諭して導こうとするような内容だった。
その手紙に感動し、何かが彼の中で目覚めようとしているときに、うっかり火をつけられて燃やされる、という。素直に感動的な展開を見せない、ブラックな笑いがこぼれました。
でもその後に、病院で、「思いがけない人物の優しさ」に触れ、ディクソンは涙を流す。
登場人物たちがやり場のない怒りを持て余し、とんでもない行動に出ることも多いですが、「怒り」「後悔」だけでなく、「許し」や「希望」「生きる」という普遍的なメッセージも込められている作品でした。
・「レイプされてしまえばいい。」売り言葉に買い言葉で、反抗期の娘に投げつけたひどい言葉。まさか、その後で本当にそうなってしまうとは想像するはずもなく。ミルドレッドは深い後悔を抱いて生きている。その後悔も、ミルドレッドを突き動かしたもののひとつなのだろう。
・人生で起きる取り返しがつかない「まさか」。たいていのことは、後から「ごめんね」って謝って仲直りもできるのですが、最悪のタイミングで最悪の事件が起こる。もしも、あの時車を貸していたら?その後悔から、逃れるための行動でもあったんだろうな、と思ったりした。
・娘を殺され、やり場のない怒りに囚われていたミルドレッドに、ほのかな希望を与えるのが、ディクソン、なんだよね。これが予想外。火をつけた側とつけられた側が、あのような行動に出るとは思いもよらず。
顔を見合わせた二人の表情が、それほど悲壮感を感じさせるものではなかったので、彼らは来た道を引き換えし、町に返るのではないかな、と思いましたが。
それともそれぞれ、看板屋への暴行、警察署への放火を行った時のように、表情一つ変えず、男を殺すのだろうか?とも思う。もしくはもっと意外な未来が?さんざん、交わされて予想を外されてきたので、映画が終わった、その後のストーリーもあれこれ想像せずにはいられない。