現在、ブログ記事の移転修正を行っております。そのためデザインの崩れが発生しております。

『断崖』/夫に殺されるかもしれない。妻の疑念と恐怖を描いたヒッチコックのサスペンス

サスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコックのミステリー。

古い映画、過去の名作をもっとたくさん見たい!と思ってヒッチコック作品にも挑戦中です。

Huluでもいくつか配信されていたり、WOWOWなどでもちょいちょい放送されているので録画しつつ時間のある時に少しずつ…。

『断崖』

監督・出演・製作 基本情報

監督:アルフレッド・ヒッチコック

出演:ケーリー・グラント/ジェーン・フォンティン

製作:1941年/アメリカ

夫に殺されるのでは?という疑念に憑りつかれてゆく女性を描いた心理ミステリー。

ヒロインのリナを演じるのはジェーン・フォンティン。

その夫役に『汚名』『北北西に進路を取れ』のケーリー・グラント。

ケーリーが演じるのはハンサムだけれども、働くことが大嫌いで、借金だらけで嘘つき男ジョニー。とってもチャラいし、軽い。

しかし、演じているのがケーリー・グラントなので、それは実は理由があっての演技で、本当はいいやつなんじゃないの?と思いながら観てました。で、その真実は?

出会い

汽車の一等客室でリナが本を読んでいると、トンネルに差し掛かり暗くなった車両の中を一人の男が移動してくる。

ハンサムだが、馴れ馴れしく厚かましい。

彼は3等の切符しか持っておらず、車掌に追加料金を支払うように言われると、リナに小銭を借りようとし、断られると彼女が持っていた切手で勝手に支払いをしてしまう。

不快に感じながらも気分を変えて新聞を読み始めたリナは、そこに目の前にいる男の記事を見つけ、彼に興味を持つ。

後日、乗馬会で再会した二人。リナはジョニーに惹かれてゆく。

裕福な家のお嬢様で、非常にまじめでお堅い女性であるリナは、ジョニーの手慣れた感じのモテテクニックにあっさりとやられてしまうのです…。

その、明らかに手慣れた様子に、私はハラハラ…。

リナはジョニーが気になってたまらず、しかしあえてクールに振る舞ってキスもさせないのだが、ジョニーにはリナの内心はバレバレだろう(汗)

その後、結局すぐにキスしちゃうし。

ジョニーのことはリナの父も知っていて、その評価はすこぶる悪い。

カードでいかさまをした、女たらしの放蕩息子。

それでもリナの燃え上がった恋心はもうどうにもならないのです。

会う約束をキャンセルされ、連絡を取ろうとしても取れなくなってしまったジョニーを健気に待ち続ける。

と、そこへようやく待ち望んだジョニーからの舞踏会のお誘いの電報が届く。

ジョニーの好きな胸元の大きく空いたドレスを身に付け、うきうきと会場に向かう。ジョニーの姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄る。

で、連絡しなかったジョニーの言い訳は…。

「怖いんだ。君を愛してしまいそうだ。だから避けてた。」

うへえ!典型的なプレイボーイの都合のいい言い訳じゃないの!!

かなり危険信号が点滅してますが、むしろうっとりしてしまうリナ。

二人は熱い口づけを交わし、そしてジョニーからプロポーズされたリナは感激しながらそれを受け、幸せな一夜を過ごすのだった。

で、二人は駆け落ち同然に結婚してしまいます(汗)

夫の本性

さて、ここからがジョニーの本領発揮。

ヨーロッパ各地を巡る豪華なハネムーンを終えて、豪華な新居(メイド付き)に帰宅。

が、なんと、ここで衝撃の事実が発覚。

ハネムーンも新居も全部借金で賄ったもの。

そう、ジョニーは無職で文無し。

「生まれながらの文無しさ。君には将来金が入るし、金を待って貧乏暮らしをするより今を楽しむべきさ。」

なんて、さらっとすごいことを言ってのけます。

これにはさすがにリナも不安になり、「お金目当てではないわよね?」とおそるおそる確認する。もちろんジョニーは「違う。」と言いますが…。まあ、「そうだ。」とは言えませんもんね^^;

さらにジョニーは次々にリナに嘘をついてゆくのです。

無職なのに、リナの父にはすらすらと仕事している風なウソをつくシーンはぞっとしてしまいました…。表情も変えず、動揺すら見せない。息をするように嘘をつくタイプ。

父からの結婚祝いとして、ずっと欲しがっていた先祖伝来の2脚の古い椅子を貰い、喜ぶリナに対し、金目のものを期待していたジョニーは苦い顔を見せる。

しかも、その大切な椅子を勝手に売ってしまう。

競馬は止めたと言っていたのに、どうやら競馬は止めていないらしい。

ジョニーを訪ねてきた友人ビーキーの言葉でそれが発覚。ビーキーが言うにはどうやら椅子を売った金は競馬資金に当てたらしいというのだ。

奥さんの大事に思っているものを勝手に売りますか…。

しかしリナはショックを受けながらも、ビーキーの言葉よりも「外国人の友人に売った。」というジョニーの言葉を信じようとする。

しかし、直後に質屋の店先に置かれているあの椅子を見つけてしまう。

ジョニーがうまいなあと思うのは、こうやって嘘をついて傷つけた後に、フォローするような優しさを見せてついた嘘を曖昧にしてしまうこと。

2000ポンドの大金を手に入れたということで、ジョニーはビーキーとリナにたくさんのプレゼントを買ってくる。そして、なんとあの椅子も買い戻してきたのだ。リナは泣いて喜ぶ。

いやいや、そこ、喜ぶところじゃないですから(汗)

一件落着したかのように思えましたが、当然ながらまだまだジョニーの悪行は続く。

昼間仕事をしているはずのジョニーを競馬場で見かけたという話を知人から聞き、オフィスと訪ねてみると、なんと6週間も前にクビになっており、2000ポンドを横領したらしい、というのだ。

あの2000ポンドは、これだったのか…。ジョニーはクビになった理由についても嘘を重ねる。さすがにリナも離婚を考え始めるが…。

そんな時に、父が急死した知らせが届く。ジョニーを警戒した父はリナには遺産を残さなかった。当てが外れてしまったジョニーは、今度は会社を作ると言い始める。

断崖の近くの土地を観光地として開発しようというのだ。

新会社の出資者はビーキー。

どう考えてもうまく行くように思えず、不安を増してゆくばかりのリナは止めようとするが、ビーキーは聞く耳を持たず、ジョニーからは口出しするなと強く言われてしまう。

<スポンサーリンク>

疑念

リナはジョニーがビーキーを殺すつもりのではないかとの疑念が頭に浮かぶ。疑い始めたらその疑念を止めることはできない。

断崖から突き落されるビーキーの姿が頭から離れない。

二人が出かけたと聞いて後を追ったリナが見たのは、断崖に向かってゆく車輪の跡。

あぁ、ビーキーが殺されてしまった。

絶望しながら帰宅すると、そこには二人がいた。ビーキーは生きていた。すべては自分の考えすぎだったのだ。と、いったんは安堵したリナでしたが、ビーキーから断崖で車が落ちそうになったことを聞かされる。すんでのところでジョニーが救ってくれたというのだが…。

本当は殺そうとして失敗したのではないか?

リナの心には不安が渦巻いていた。

ビーキーが断崖から突き落されたのではないかと、不安に駆られて帰宅したリナが二人を見つけると、疑いが晴れて、ふわーと世界が明るくなるんです。

疑いで心が支配されている間は、画面が暗かったんです。明るくなって初めて気づいた。こういう心理を背景に反映させる演出も印象的でした。

ジョニーは会社の設立を急遽取りやめることにし、会社の解消のためにビーキーはロンドンに向かう。そして彼はそこで死んでしまった。彼の死について調べている刑事たちが家に訪ねてきてリナはそれを知った。

刑事たちによると、ビーキーが死んだのはブランデーの一気飲みが原因だという。英国人の一緒に酒を飲んでいてその友人が酒を勧めたらしいのだが…。

リナは思い出していた。

ビーキーがブランデーを飲んで苦しそうにしていたことを。彼はブランデーを飲むと具合を悪くするのだ。苦しむ様子を見ながら、「死ぬか、自然に治るかだ。」と冷たく言ったジョニーのことを。(随分変わった体質だこと…。)

彼はビーキーに同行してロンドンに行き、ブランデーを飲むと危険なことを承知の上で、あえて飲ませたのではないか?

ここからは夫は殺人犯ではないか。そんな疑念に憑りつかれ、自分も殺されるのではないかと怯えるリナの姿が描かれてゆきます。

疑わしいことが次々に発覚してゆく。

やたらと探偵小説を読み漁り、友人である推理作家に完全犯罪を成立させる方法について質問をしていたり、痕跡を残さない毒について調べていたり…。

そして、自分の生命保険の担保に融資が受けられないかと保険会社に問い合わせをしていたり…。

そして保険会社からの返事は、「融資は不能。夫人が死亡した時のみ保険金が支払われる。」というもの。

保険金目当てで殺されてしまう。

恐怖のあまり、倒れてしまったリナを献身的に看病するジョニーだったが、彼が運んでくれた牛乳は、毒が混入されているかもしれないと怯えるリナには呑むことができなかった。

このドラマでもっとも印象的な演出と言えば、ジョニーがリナのために牛乳を運んでくるシーンですね。

暗い螺旋階段を上ってくる男の影。顔も一切見えないくらい中で、彼がおぼんにのせて運んでいるミルクだけが暗闇の中に白く浮かび上がっているのです。

つい、先ほど「痕跡を残さない毒薬」について語られたばかりです。

観ているこちらも、「この中には毒が入っているのでは?」と不安を掻き立てられます。

このシーン、なんとミルクのコップの中に豆電球を入れて光らせたのだとか。

ミルクの危険性や怪しさを際立たせる印象的な演出でした。運んでくるジョニーの表情が闇に包まれているのもいいですね。

耐えきれず、実家に戻ろうとするリナを送ってゆくというジョニーは断崖沿いの道をスピードをあげながら走ってゆく。その横顔からは一切の表情が消えている。

ふいにドアが開き、リナは落ちそうになるが・・・・。

こちらに手を伸ばしてくるジョニーに、突き落されると思ったリナは大きな悲鳴を上げる。

が、実はジョニーは助けようと手を伸ばしただけで、落とすつもりはなかった。

彼は刑務所に行くことも覚悟しており、あの日はロンドンではなく金策のためリバプールに行っていたというのだ。一緒にロンドンに行っていれば、ビーキーを死なせることもなかったのにと、後悔さえ見せる。

ジョニーは一人で自殺を考えるほど思いつめていたのだ。

こうして彼の疑いは晴れ、リナは自宅へ戻ることにした。二人で車に乗り込み、ジョニーはリナの肩にそっと手を伸ばした。めでたし、めでたし。

果たして、これはハッピーエンドなのだろうか?

ちょっと拍子抜けのラストシーン。

しかし果たして、これはハッピーエンドなのだろうか?

あれだけ嘘に嘘を重ねてきたジョニーと、見事に騙されてきたリナである。

今回だけ、ジョニーが真実の気持ちを吐露していて、今後は心を入れ替えて生きて行く。そんなことがあるだろうか?

ジョニー本人が言っているではないか。「人は変わることはできない。」と。

同じ口で「僕は変わったんだ。」と言われても、「そう、変わったのね!」とは私には思えないのだ。

ビーキーだって断崖から落ちそうになってぎりぎりでジョニーに助けられて、その後別の方法で死んだ。今回もそうだとは言えないのだろうか?

そして、リナはジョニーが運んできたミルクを飲んでいない。

あのミルクに毒は本当に入っていなかったのだろうか?

答えはわかりませんが、原作ではリナはジョニーに殺されてしまいます。観た人がどう受け止めるかですが、あれほどの病的な嘘つきは、心を入れ替えて治るものではないと思いますので、「心を入れ替えて頑張る。」というのは嘘だと思いました^^;

ケーリー・グラントは大スターなので、悪役にはできなかったらしく、ちょっと中途半端な終わり方になってしまったんですって^^;

ヒッチコックには別の構想があったのだとか。

まあねえ、観てるこっちも実はジョニーはいい人なんじゃないのって思いながら観ちゃいましたし。実際に『シャレード』もそんな感じだったしねえ。

ヒッチコック作品の中ではイマイチ不人気らしいのですが、私は、これはこれで好きですよ。

ヒッチコック登場シーン。

わからなくて、すごい探した(汗)

49分ごろ、本屋で本を買ったリナが女性に出会うシーンです。

その背後で、ポストに手紙を投函している男性がヒッチコック。わー、全然気づかなかったけど、言われてみれば確かにあの丸みのある体型はヒッチコックかも^^;

ケイリー・グラント

彼は大スターだけど、ケチだったらしい。撮影でホテルに宿泊する際は、会社が用意した高級ホテルをキャンセルし、ランクを下げたホテルに宿泊し、その差額を会社に要求したとのエピソードが伝わっている。うへえ!そんな男は嫌だ!

ジェーン・フォンティン

『レベッカ』でオスカーにノミネート。そして本作でオスカーを受賞しています。前半の恋する乙女ぶりと、ジョニーへの疑念と信じたいと願う気持ちで揺れるさま、そして後半の夫を疑い、怯えて衰弱してゆく様子は確かに名演技でした。

とても綺麗な女優さんだったし。

舞踏会を抜け出し、車のなかでジョニーとキスを交わすシーンの、胸元と喉元の美しさが印象的でした。

ジョニーに誘われて、一瞬にして浮かれてしまい、メガネをはずし髪をさっと整えたリナの女心が可愛らしかった。

劇中でジョニーに「モンキーフェイス」とあだ名をつけられてるのだけれど、全然サル顔じゃないのに、なんでだろう?

以上、『断崖』の感想でした。

コメントを残す