本日の映画は『偽りなき者』
非常に重苦しい映画なのですが、何度も繰り返し観てしまう、お気に入りの作品です。
主演は『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の迷宮』のマッツ・ミケルセン。デンマークの俳優さんで、『デンマークの至宝』と呼ばれている名優です。最近はハリウッドの大作映画やアメリカのドラマでの活躍も目立ちますね。
本作のマッツはメガネをかけていて、メガネ好きの私のツボにはまりまくり(*´∇`*)。
マッツが演じるのはいわれなき罪を着せられ、変態呼ばわりされて、町中からヒステリックに迫害されまくる…というとても気の毒な役柄なのですが、マッツの打ちひしがれ具合がたまらなくて、しみじみとマッツ・ミケルセンが好きだ!!と思いました(*´∇`*)
『偽りなき者』
監督 出演 製作 基本情報
監督:トマス・ウィンターベア
出演:マッツ・ミケルセン/トマス・ボー・ラーセン
製作:2012年/デンマーク
第86回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。第65回カンヌ映画祭主演男優賞受賞。
あらすじ
勤めていた学校が閉鎖され、職を失ったルーカスは幼稚園に新しい職を得て、離婚した元妻の元で暮らす息子マルクスと一緒に暮らせる日を心待ちにしていた。
友人にも恵まれ、同僚の女性との付き合いが始まり、穏やかな生活を送っていたルーカスだが、ある日突然、悪夢のような出来事が襲う。
親友テオの娘で幼稚園に通うクララが、ルーカスに性的ないたずらをされた、と言い出したのだ。
まったく身に覚えのない罪で、変質者の烙印を押されてしまったルーカスは、職を失い、友人は去り、恋人と別れ、町の人々から憎悪と侮蔑を込めた視線を向けられ、虐げられることになるのだった…。
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感想(ネタバレあり)
観ていてなんとも辛くなる映画でした。
つい嘘をついてしまったクララ。クララにとっては幼い女心とプライドを傷つけられた故の、ほんの小さな嘘だった。
クララは本当はルーカスが大好きだったのです。
ルーカスが大好きなクララは、彼に特別なプレゼントを渡そうとするけれども、「適切ではない」と考えたルーカスはプレゼントを受け取ろうとはしなかった。
このルーカスの対応は間違っていない。しかしそのことが、幼いクララを傷つけてしまい、彼女はほんの軽い気持ちで嘘を言ってしまった。クララは自分が言ってることの意味も、よくわかってなかったのだろうと思う。
傷つけられた、小さな女の子のプライド。
ルーカスが大好きだったから、拒絶されたようで悲しくて、腹が立って、軽い気持ちで口にしたことを、周囲の大人たちがどんどん大騒ぎして、大事にしていってしまうという…。まあ内容が内容だけに、大人たちが大騒ぎするのも当たり前なのですが、あまりに一方的なんですよね。
▼クララの証言に驚愕する園長グレテ。
出典:http://eiga.com/movie/77778/
ルーカスには弁解の機会も与えられない。
怪しげな、児童心理学の専門家みたいな人やってきて、クララに誘導尋問のようなことをして、ルーカスはあっという間に変態認定をされ、園長グレテがそれを保護者たちに事態を伝えたところ、保護者たちは当然ながらルーカスに激しい怒りと憎悪を抱く、という…。ここまで、あっという間。
子供は無垢な存在で、嘘なんてつかない。
そんな大人たちの思い込みが恐ろしい。その思い込みによって、無実のルーカスは徹底的に排除されてしまうのだ。
クララは大人たちの雰囲気がおかしくて、まずい事態だと子供ながらに察して、すぐに自分の言ったことを否定しようとするのだけれど、もう大人たちは耳を貸さない。
クララは何度も否定したのに。
傷ついているから、怖がっているから、そんなことはなかった、嘘をついたのだと子供は思い込もうとする…と、大人たちは思い込んでしまう…。
どうしてクララが性的な事柄や言葉を知っていたのか、ちゃんと伏線もあります。年の離れた兄が友人たちとふざけていた内容を見聞きしてしまう、といういかにもありそうな…。
出典:http://eiga.com/movie/77778/
大人たちは、
子供がそんなことを知っている筈がない。⇒ 知らないのにウソが付けるはずない。⇒ 本当にあったことだ!!
といとも簡単に結論付けてしまう。
自分たちが子供の頃、大人たちが思う以上にいろんなことを知っていたり、嘘をついたりいていたはずなのに、大人になったとたんに、そんなことは忘れてしまう。
変態認定された後のルーカスの状況は、ただただ悲惨です。
クララだけじゃなく他の園児たちまで被害を受けたと言い始め、警察にも連行され、反論しても聞く耳を持ってもらえず、集団心理も手伝って、町の大人たちはヒステリックにルーカスを執拗に迫害し続ける。まるで魔女狩りのように。
ようやく見つけた仕事は解雇され、恋人とも別れ、息子とも一緒に暮らせなくなってしまう。
スーパーに買い物に行くと、何も売ってもらえず、殴る蹴るの暴行を受け流血してボロボロにされてしまう。(←傷害罪!)
挙句、可愛がっていた飼い犬は無残に殺される。
どしゃぶりの雨の中、庭に穴を掘り、愛犬を埋めるルーカスの絶望と怒り…。
どうしてここまで、、、、と思う反面、幼い子供に性的ないたずらをした人間が私の目の前にいたら、そんな汚らわしい人間とはまともに付き合いたくないと思ってしまうだろう。暴行したり犬を殺したりはさすがにやらないけれども、無視はするし、睨みつけるくらいはするかも。
子供を被害者にした恐ろしい事件は後を絶たず、深い傷を負う子供たちも珍しくない。無力な子供たちを守りたいと思うのは、大人として当然のこと。もう少し慎重に行動すべきだったとは思うが、彼らもまた悪気はないのである。
誰一人悪意がないのに一人の男の人生が破壊されてしまう、という悪夢。
けれど、ルーカスは一歩も引かない。
譲れないもの、守りたいものが彼の中にあったから。
それは自分は恥ずべきことは何一つしていない、最愛の一人息子マルクスに恥じない自分でありたい、という想いだったに違いない。
出典:http://eiga.com/movie/77778/
わずかな救いは、息子のマルクスが最初から最後まで父を信じ続けたこと、そして支えてくれる友人たちが少数ながらいてくれたこと。あの状況で離れていかない友人がいるって、ルーカスがこれまでの人生で誠実であったという証拠だよね。
終盤、ルーカスはクララの父であり親友のテオの目をまっすぐに見ながら、無実を訴える。
テオとルーカスの付き合いは長い。
だからテオは知っていた。
ルーカスが嘘をつくとき、視線が定まらないことを。(序盤の「ルーカスの嘘をつく時の癖」というのが伏線になっています。)
そこでテオはようやくクララの言葉が本当なのか、、という疑念を抱く。
▼掴みかかるようにテオに潔白を訴えるルーカス。
出典:http://eiga.com/movie/77778/
そして翌年。
疑いが晴れ、かつてのように仲間たちとの語らいのとき楽しむルーカスの姿があった。
めでたし、めでたし、、と行きたいところでしたが、
「そんなにうまくいくものなの?」というこちらの疑念通り、表面上はもとの生活に戻ったように見えても、ルーカスに一度貼られたレッテルは簡単にはがれない。
ルーカスの容疑は一応は晴れたけれど、もう元の生活が戻ることはない。彼が本当はやったのではないか、という疑念を持ち続ける者はいるから。ルーカスもそれを感じている。一度壊れたものは完全には戻らない。
誰かに殺したいと思われるほどに、憎悪されてながら、ルーカスはこの場所で生きて行くしかない。
そのような状況に追い込まれてもルーカスはクララを許して、以前のように優しくクララに接するんですよね。本当に、いい人。
ここまで人生を壊されてしまったら、いくら子供と言えど、許せない人の方が多いのではないでしょうか。私なら子供でも一生恨み続けてしまいそうだし、いたたまれなくて、引っ越してしまうかなぁ。
このクララを許す、というシーンは重苦しい映画の、数少ない救われるシーンでした。
まとめ
ルーカスの人生がささいな嘘によって破壊されるところは胸が詰まるが、実際のところ、この状況に遭遇したら、私も間違いなくルーカスを軽蔑し、嫌悪し、憎悪するだろう、思う。
ましてや自分の娘が被害者であれば、娘の証言を信じ、ルーカスの言葉など耳を貸さないかもしれない。
私は観客として映画を観ているから、ルーカスが冤罪だということを知っていて、だからグレテやテオやその妻や他の保護者たちに怒り心頭なわけだけれど、これが中の人になってしまったら、絶対に一緒になってルーカスを迫害する側に回ったと思うのよ。たとえルーカスが親友であっても。
人を信じるということは難しいものですね。
現実社会でも痴漢冤罪で人生を狂わされる人がいる。一度でも痴漢で捕まった人に対して、たとえ疑いが晴れたとしてもその人に「不快感」や本当はやったのではないか?という「不信感」を抱かずに接する…。私にはできる自信がないです…。
以上、『偽りなき者』の感想でした。
トマス・ウィンターベア監督は『光のほうへ』という作品が素晴らしいんです。母親にネグレクトを受けている幼い兄弟が赤ん坊の世話をするのですが、不注意で死なせてしまう…という。
嘘が人生を狂わせる作品といえば…こちらがおススメです。オードリー・ヘップバーン主演。かなりヘヴィな展開と呆然自失の結末が待っています。
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