本日の映画は『人生はビギナーズ』
75歳の父に「実はゲイである」とカミングアウトされた息子のおはなしです。
これは監督のマイク・ミルズが実際に経験したこと、つまり本作の父親はミルズ監督自身の父親がモデルになっています。
パッケージも鮮やかな黄色ですが、作品の中でも黄色の色彩が印象的です。そして時折登場する味のある絵と、可愛らしい犬が心に残りました。
<スポンサーリンク>
『人生はビギナーズ』
監督・出演・製作 基本情報
監督:マイク・ミルズ
出演:ユアン・マクレガー/クリストファー・プラマー
製作:2010年/アメリカ
本作はマイク・ミルズ監督の実父との関係がモチーフになっています。
ちなみに実母との関係を描いたのが『20センチュリー・ウーマン』という作品です。マイク・ミルズはこの作品で第89回アカデミー脚本賞にノミネートされました。
ネタバレ>>>『20センチュリー・ウーマン』/1979年、特別な夏の物語。
主人公の父親を演じたクリストファー・プラマーが、第84回アカデミー賞で助演男優賞を受賞。82歳での受賞は演技賞史上最高齢での受賞です。
主演はユアン・マクレガー。最近では実写版『美女と野獣』で陽気な燭台を演じていました。
ネタバレ:『美女と野獣』(2017年)/ディズニーの名作アニメ作品を実写化。エマ・ワトソンとダン・スティーブンス共演。
あらすじ
ユアン・マクレガー主演で人生を前向きに生きようと変化してく人々の姿を繊細に描いた人間ドラマ。38歳独身で奥手なオリバーは、母に先立たれ5年がたったある日、ガンの宣告を受けた父からゲイであることをカミングアウトされる。衝撃を受けたオリバーは事実をなかなか受け止められず臆病になってしまい、運命的な出会いを果たした女性アナとの関係も自ら終わらせてしまう。しかし、真実を告白した父は残された人生を謳歌し、その姿を見たオリバーは自分の気持ちに正直に生きることを学んでいく。監督は「サムサッカー」のマイク・ミルズ。引用:人生はビギナーズ : 作品情報 – 映画.com
感想(ネタバレあり)
勝手な先入観でコミカルなお話かと思いきや、意外にシリアスな展開に驚きつつ、最後まで観るととても優しい気持ちになれる映画だった。
自分の目に映るもの、感じたことがすべてではない。
そこには自分のうかがい知れぬ、”何か”があるのかもしれない。
勝手な推察は物事をややこしくするだけ。ならば思い切って挑戦してみよう。
失敗してもいい。人間は誰も自分の人生の初心者なんだから。
本作のみどころは…
- 犬の心の声?が聞こえるところ。
- 風変わりで小悪魔的なヒロイン・アナ
- 作品に込められた前向きなメッセージ
かな。
もしも、父に実はゲイだとカミングアウトされたら?
どうします?
なんとなく気づいていたならともかく。全くの青天の霹靂であったら?
さぞかし衝撃的で、簡単には受け入れられない気がする。今、現実に私の父の顔が浮かんでますが、あの父がゲイだったら…。あ、ツライ、と思ってしまう自分がいる。最終的には受け入れるとしても、相当葛藤があると思います。
自分の子どもや友人がカミングアウトするのと、親がするのとでは全然違う気がするんです。もしも父がゲイであるならば、自分の存在を見失いかねない。父母の関係はなんだったのだ?そこに愛はあったのかい?と悩んでしまいそう。
もともと内向的で、深く思索にふけってしまう性格だった主人公オリバーは事実をやはり受け止めきれない。一方でカミングアウトした父は若い恋人を作って第二の人生を謳歌し始める。生き生きと楽しそうな父の顔を見ていると、オリバーは割り切れないものを感じてしまうのです。
戸惑う時間もなく父は末期がんに侵され、オリバーはそのケアに追われることになるのですが…。
オリバーの記憶の中にある両親の姿は、風変わりで冷めた関係に見えていた。オリバーは恋人ができてもうまくいかずに、自分から別れを切り出してしまう傾向がありますが、家族との関係は、オリバーの複雑な性格を形成する一因となっていた。(ちなみにオリバーは38歳独身です。)
物語が始まった段階で、オリバーを悩ませた父はこの世にはおらず、亡くなっています。
冒頭、静かに遺品を片づけるオリバーの姿が映しだされますが、その姿は悲しむよりも、父の死を受け止めきれずにいる戸惑いを感じさせます。物語は現在と回想シーンを行ったり来たりしながら進んでいきます。
これはオリバーが父の本当の姿とその死を受け止め、自分の人生を前向きに生きていくことを決意する物語。
ワンコがかわいい。
ワンコのアーサーがとてもかわいい。
寡黙で多くの言葉を発しないオリバーの、内心の声を代弁する存在が、父の飼い犬・アーサー。
ワンコの心の声を字幕で表現するという演出が、いいんです。その内容は鋭い。自分でも見て見ぬフリをしている心の中のモヤモヤにずばり切り込んでくるようで、ちょこっと首を傾げたりする仕草が本当に言葉を発しているように見える。
アーサーが映るたびに微笑ましくなってしまった。クリストファー・プラマーだけじゃなくワンコにもアカデミー賞をあげたいくらい。
<スポンサーリンク>
恋人アナがかわいい。
http://eiga.com/movie/56786/gallery/2/
アーサーもかわいいがオリバーの恋人アナもかわいい。
友人たちは父の死にふさぎ込むオリバーを仮装パーティーに連れ出すのだが、フロイト博士の仮装をしたオリバーはそこでアナと出会う。カウンセリングが必要なのはむしろオリバーの方ではないかと思うのだが、なぜフロイトなのだろう?(笑)
咽頭炎でのどを痛め、話すことのできないアナとの筆談でのコミュニケーション。声を出さないアナはミステリアスで、くるくる変わる表情だけでオリバーを魅了してしまう。演じているのはメラニー・ロラン。
▼メラニー・ロラン出演作。とっても不思議なお話です。
アナのキュートな魅力は画面からも溢れていて、観客(というか私)も彼女に惹きつけられてしまう。少し気まぐれで、ふわふわととりとめがなく、悪意なく男性を振り回す小悪魔的な雰囲気が『500日のサマー』のサマーを思い出させたかな。少しだけね。
▼サマーは私の中では小悪魔の代名詞的存在。
しかし、アナも家族間で問題を抱えているらしい。詳細は明らかにはされないけれど、彼女は父との間に確執を抱えているようなのです。決して定住しようとせずホテル暮らしを続けるアナ。あえて物を持たずに生活しているアナには、笑顔の裏側に秘められた孤独が見え隠れする。
オリバーと一緒に暮らし始めても、彼女のために用意したチェストの中には何も入れようとしない。まるでいつでも去れるように、とでも言いたげな…。
それを見て不安を覚えるものの、やっぱりオリバーはアナを勝手に推察してばかりで理由を尋ねることもできない。
ライオンを待つか?それとも…?
印象的だったのはライオンのエピソード。
「ライオンを待っているがいつまで待っても来ない。そこへキリンが来たらどうする?」と問いかける父。
「ライオンが来るまで待つよ。」と答える息子に父は言う。
「だからお前が心配なんだ。」
人生はいくつになってもやり直していい。軌道修正をしてもいい。ライオンが来なければキリンを捕まえてもいいし、ライオンよりもキリンが欲しくなったとしても問題ない。
「自分らしさ」や「自分が欲しいモノ」は人生のステージでも変わっていくもの。年を重ねて初めて気が付くこともある。20歳の時に思い描いた40歳になれていなくてもいいのかもしれない。「変わる」ことに負い目を感じなくてもいいんだ。そんな風に思いました。
父の生きた時代は同性愛者が「精神病」と判断された時代。父自身も「自分は異常だ。」と思っていたのかもしれない。今よりもカミングアウトすることは ずっと難しかった時代。「ゲイであること」を治す、治さない、という表現が出てくるのは辛かった。自分の本質的な部分を隠して欺いたまま、ありのままでいられないのは辛いものだと思う。
両親のなれ初めはとても素敵で。
母は(ゲイであることを)「治してあげる。」と言い、父は心から「治したい。」と思った。そうして二人は結婚したのだ。
もちろん「治る」ことはなかったのだけれど、その時の二人の気持ちは真実だったと思うのよ。母は父がゲイであることを知った上で、それでも彼を愛した。
彼女は「治す」ことは諦めたかもしれない。女性として、愛する男性に決して「求める形で」愛されることがないという現実を受け入れることに葛藤はあっただろうと思う。しかし離れずにずっとそばにいたのは、やはり愛があったからではないだろうか?
オリバーには冷え切った夫婦に見えたが、
それでも父は自分らしく生きたかった。生きようと決めた。
オリバーはようやく父がゲイであることと父の死を受け入れ、そして一度は壊れてしまったアナとの関係を取り戻そうと奔走する。その過程で父の恋人と小さな絆が結ばれるのもいい。父と父の恋人の関係もようやく肯定できたんだ。
「これから先のことはわからないけれど、試してみよう。」
オリバーとアナの関係が新しく始まるところで物語は終わる。
誰しもが人生はビギナー。失敗もするし、間違いも犯す。
試行錯誤しながらじたばた生きていくしかないのだなぁ、思いました。
以上、『人生はビギナーズ』の感想でした。
コメントを残す
コメントを投稿するにはログインしてください。