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『フローズン・リバー』/凍てついた川を越えて。

本日の映画は『フローズン・リバー』

クエンティン・タランティーノが絶賛し、サンダンス映画祭グランプリを獲得。その他多くの賞を獲得しました。

カナダの国境を接したニューヨーク州最北端の小さな町で、違法な密入国の手助けに手を染めてゆく二人のシングルマザーのお話で、なかなかハードな内容ではありますが好きな作品。

二人の女が凍てついた川を密航者の乗せた車で渡る。

誤って氷の薄い場所に入り込んでしまえば、車ごと川に沈んでしまう危険と隣り合わせで。

彼女らの人生はまさにそんな薄氷の上を歩くような緊迫感があり、心臓が凍りつくような恐ろしい出来事にも遭遇します。

決して「楽しい」映画ではありませんが、冷え冷えとした女性の人生を寒々しい北の町の風景が彩り、とても見ごえあり。

ラストにほんのりと希望があるんですよね。低く灰色の雲が垂れ込める冬の空にふと広がった晴れ間から光が射しこむような、そんな感じ。見るたびに染みるものがあります。

重くて暗い映画が大好物の方に絶賛オススメしたい。

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『フローズン・リバー』

監督・出演・製作 基本情報

監督:コートニー・ハント
出演:メリッサ・レオ/ミスティ・アップハイム
製作:2008年/アメリカ

第81回アカデミー賞脚本賞ノミネート(受賞は『スラムドック・ミリオネア』)

主演のメリッサ・レオは主演女優賞にノミネートされました。(受賞は『愛を読むひと』のケイト・ウィンスレット)

▼メリッサ・レオ関連作

あらすじ

ニューヨーク州最北部の町で暮らすレイは、新居購入のための資金を夫に持ち逃げされ、息子2人と路頭に迷ってしまう。支払いに追われるレイは、モホーク族の女性ライラと組んで不法入国斡旋のビジネスを開始。それぞれ複雑な事情を抱える2人は、反発し合いながらもこのビジネスを続けていくが……。

引用元:http://eiga.com/movie/54879/

感想(ネタバレあり)

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人生がどん詰まり。

冒頭、寒々しい雪の積もった屋外で、はらはらと涙を流しながら煙草を吸う主人公レイの姿にまず惹きつけられる。しかも足元は裸足。

ノーメイクで疲れ切った様子の中年女性が「泣きじゃくる」のではなく、だた静かに泣いている。感情も表に出てこないほどの絶望と生活苦が深く刻み込まれている。

主人公レイを演じたメリッサ・レオはほぼノーメイク。そんなレイがお化粧をするシーンがあるのですが、それがまた痛々しさを感じさせるシーンとなっております。

なぜレイは泣いているのか?

ギャンブル狂いの夫が失踪。しかも家を買うために貯めておいた資金を持って。手付は支払済み、残金を払えなければ家を買えないどころか、手付けを没収されてしまう。

失踪するなら金は置いて行けやヽ(#`Д´)ノと思います。

ごはんは朝も夜もポップコーン。

正規雇用に切り替える約束は反故にされ細々と低賃金のパート労働に従事するしかないレイにはお金がない。人生のどん詰まり。

しかし逃げることは許されない。子供がいるから。そう、この作品は「母親の強さ」をすごく感じさせられる映画なのです。

失踪した夫の車を盗んだ女がモホーク族のライラ。これがまたふてぶてしく憎らしいのです。「キーがついてたから。」と悪びれもせず、車を返そうともしない。

レイはそんなライラの家のドアに向かっていきなり銃を撃つ。予告もなしにですよ。ビビりますけど、これが彼女らの生きる世界なんだろうなぁと思い知らされる。

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レイはライラによって当初は半ば強引に密航の片棒を担がされることになるわけですが。

レイはライラに騙され、銃を突きつけられ、髪の毛を毟られて、お金は独り占めされる。

ここまでのライラの行動には不快感を抱かずにはいられないが、ライラにも夫に先立たれ生まれた子供は義理の母に奪われてしまったという不幸な事情がある。

▽この二人が犯罪に手を染めていくようになるわけですが…。

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二人の関係はあくまでも「ビジネス・ライク」

必要以上に言葉を交わさないし、お互い表情は硬く怒ったような表情を崩さない。隙を見せたら付け込まれる。弱さを見せたら侮られる。 お互いを信用しておらず常に警戒をしているのが感じられる。

その二人が初めて「連帯感」らしきものを見せるシーンがある。

パキスタン人の鞄の中身は…。

パキスタン人の密航者を運ぶ時、テロリストではないかと疑ったレイが彼らの鞄を凍った川に捨ててしまうのですが、鞄の中身は「赤ん坊」

零下20度を下回る極寒のなか、走り回って必死に赤ちゃんを探す姿に「母性」を感じた。母親なら「赤ん坊」を凍死させるなんて絶対にできない。

見つけた時には冷たくなっていた赤ん坊を「冷たいまま母親に渡すわけにはいかない。」と言うレイの言葉。

これは男性には思いつかない言葉なんじゃないかなと思った。 ライラが必死で温めた結果、赤ん坊はなんとか息を吹き返す。

ここで赤ちゃんが死んでしまっていたら胸糞が悪すぎるので、生きててくれて心からほっとした。

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母として。

「仕事」がずっとうまく行くはずもなく、もう引き際だという時にトラブルが発生、どうしてもお金が必要になってしまう。

そして「これで最後。」と決めた仕事で、二人は警察に見つかってしまう。警察の力が及ばないモホーク族の居留地に逃げ込んだものの、レイとライラ、二人のうちどちらが出頭するか、という決断に迫られることになります。

レイの決断はただ「母」として。それだけだったのだと思う。

出頭するというライラに任せて、いったんは立ち去ったものの、思い直してライラの元に帰る。

ライラが捕まれば部族を追放され子供を取り返すことも出来なくなる。レイは白人で初犯。数か月で出てこれる。だからレイはライラに子供を託し自分が出頭すると決めたのだ。

ライラも「母親」だから、母として子供を守りたいと思う気持ちは通じ合えるとレイは考えたのだろうね。

義母から子供を取り返し、レイの子にも微笑みかけるライラの姿。

こんな風に優しく笑える人だったんだ。

最後の最後までにこりともしなかったライラの優しい母親の表情に少し救いを見出された気がしました。

振り込め詐欺に加担していた息子T.Jがだましたおばあちゃんに謝るシーンが最後にあるのもよかった。

レイが戻ってきたとして生活が苦しいのは変わりがないのだけど、3人の子どもと過ごすライラの笑顔には光があるように見えました。

犯罪は許されることではない。それは当然だけどそうと切り捨てることができないものがあるね。誰しもが生きて行かねばならない。子供を守ろうとしたその先には「犯罪」しかなかった。そういうことなんだと思う。

警官にレイに同情的な雰囲気があったのは犯罪に手を染めざるを得ない貧困の現実をわかっているからなんだろなぁ、と。

タランティーノが絶賛したラストシーン。私も大好きです。

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