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『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』/愛する人のために何ができるか?

オスカー女優ジュリアン・ムーアと若手演技派エレン・ペイジが共演した実話を元にした物語。

病に冒されて衰弱しつつも愛する人のために戦う女性の姿は涙が滲みました。

ジュリアン・ムーアは大好きな女優さんです。

『ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気』

基本情報

監督:ピーター・ソレット
出演:ジュリアン・ムーア/エレン・ペイジ/マイケル・シャノン
製作:2015年/アメリカ

同性のパートナーのために、一緒に暮らした家と遺族年金を残そうとした有能な刑事ローレルとその恋人ステイシーの、実話を元にした物語。

二人のお話は、ドキュメンタリー作品「フリーヘルド」にもなっていて、その作品はアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞受賞しています。今回はその映画化。

仕事一筋に生きてきた女性刑事・ローレルを『アリスのままで』のジュリアン・ムーア、その恋人ステイシーを『JUNO/ジュノ』のエレン・ペイジが演じています。

二人とも大好きな女優さんなので、劇場で観てきました。お客さんの入りはまずまず。

クライマックスに差し掛かると、劇場内からすすり泣く声も聞こえてきて、私も泣いてしまいました。

自分の死が迫ったときに、愛する人に何を残せるか…。

残される人に何がしてあげられるのか。

映画を観終わった後に、そんなことを考えました。

ざっとあらすじ&感想など。

物語の舞台は2002年、ニュージャージー州オーシャン郡。

刑事として23年間のキャリアを持つローレル。正義感が強く、勇敢なローレルは真摯に仕事に打ち込み、数々の手柄を立てオーシャン群初の女性警部補候補と見なされていた。

ある日、ローレルはステイシーという女性と出会う。

年齢差もあり、慣れないデートに戸惑いを見せるローレルだったが、やがて二人は深く愛し合うようになり、出会ってから1年後に家を購入して二人で暮らし始める。

穏やかで幸せに満ちた生活は、長くは続かなかった。

ローレルが末期の肺がんに冒されていることがわかったのだ。

ローレルは自分の死後も、ステイシーが二人で暮らした家で生活してゆけるように、遺族年金を残そうとするが、遺族年金を残せるのは配偶者のみ。同性のパートナーには認められていなかった。

愛する人のために立ち上がったローレルを支援する人たちが徐々に増えて行き、やがて大きな流れとなっていく。

とにかく、主演の二人の女優の演技が素晴らしい。

有能な刑事で、銃を持ったヤクの密売人に躊躇なくとびかかるほどの勇敢さを持っていたローレルが、病に冒され徐々に衰えてゆく。しかし、肉体は衰えても心の中に持った勇気と正義、強い愛は決して変わらない。死を前にしても凛とした強さを持つ女性をジュリアン・ムーアが演じています。

刑事の顔、ステイシーに見せる優しい顔、病の苦しみと戦う顔…。

人間の持つ、様々な一面を見せてくれました。

刑事としての活躍の勇ましさから、病が発覚してからの変わり方が本当にすごいです…。

ステイシーを演じたエレン・ペイジも演技力に定評のある女優さんです。

まだ年が若いのですが、ローレルの病を必死に受け止め、一番近くで彼女を看病し、支える女性を演じています。

そして脇を固める俳優陣も…。

ローレルの相棒刑事デーンをマイケル・シャノン。

同性愛の支援団体の活動家をスティーヴ・カレル。

なんとこの4人全員がオスカーを受賞、またはノミネートされた経歴を持つのですね。

一人で立ちあがったローレルを支えるために、すぐに寄り添ってくれた相棒デーン。彼以外には味方は多くはありませんでしたが、徐々にローレルの想いに共鳴する人々が増えてゆく様子は心に熱く迫るものがありました。

エンドロールでは、実際のローレルとステイシーの仲睦まじい様子や、闘病の様子を写した写真が登場。本当に素敵なカップルの姿がありました。

私はこういう出来事があったことを全く知りませんでした。

2015年6月にアメリカ最高裁が「同性婚を含むすべてのアメリカ人の婚姻を保証する」という画期的な判決を下したのですが、この判決にも影響を与えたのだとか…。

こんな風に、勇気を持って立ち上がり闘った人たちが数多くいて、今があり、今もまだまだ闘い続けている人がいるんだ、ということを、改めて教えていただきました。

では以下はネタバレです。

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相棒にも言えない秘密。

ローレルは長年パートナーを組んできた相棒のデーンにも、自分がレズビアンであることは内緒にしてきた。ニュージャージー州オーシャン郡という場所は元々保守的な地域であるらしく、今よりもずっと偏見や差別が強かったのだろう…。

「警察では女は出世できない。ゲイは論外。」

だから、デートしているバーに同僚がいたら逃げるように店の外に出たり、ステイシーが家の電話に出ようとしたら強い口調で止めたり…。自分がレズビアンであることを隠し続けています。

ローレルが過去にどれほど苦しんだかを感じさせるシーンがあります

取り調べの最中に、事件の真相を知る女性に証言をするように説得するシーン。

「16歳、秘密を隠そうとした。抱えきれなくて母に相談した。精神科にも入った。何かを抱えて生きるのは辛いものよ。」

そんなセリフ。

知られたら現場から外されるかもしれない。

相手に嫌われてしまうかもしれない。

築いてきたものが壊れてしまうかもしれない。

そんな不安が付きまとう。

人間にとって、誰かを愛したり、パートナーを求めたりすることは、ごくごく自然なことなのに、それを隠さなければならない。互いに信頼し、命を預けることもある相棒にさえも。どれほど辛いことだろうか。相棒のデーンは真実を隠されていたことに当初はショックを受けるものの、やがてローレルの理解者としてそばで支え続けることになる。

パートナーと家と犬と…。

いつもきりっとした表情のローレルが、ステイシーからのデートのお誘い電話を受けた時は本当に幸せそうな微笑を浮かべるのですよ。次の瞬間には仕事モードに戻っちゃうのですが、あの一瞬の笑み、とても印象に残りました。

ローレルとステイシーは喧嘩をしつつも、強い絆で結ばれた関係を育んでゆく。

二人が海辺で人生の夢を語るシーンがあります。同じ夢を抱いていたのですね。

「愛するパートナーと家と犬があればいい。」

ごくごく自然で、ありふれた幸せな夢。

二人はそれを叶えるために、一軒家を購入する。あれこれ相談して、協力してリフォームして、居心地のいい空間を作り上げてゆく。二人の仲睦まじい様子が微笑ましくて、じゃれ合って、犬と寄り添って眠る様子は幸せそのものだった…。

でも、この幸せは長くは続かない。

愛する人のために何ができるか。

ちょっとした体の不調を感じたローレルが病院に行くと、肺がんであることが発覚する。すでに末期で、治療をしても生存率は低い。

万が一、自分が死んでしまった場合、愛するステイシーのために何ができるのか?ローレルは考えた。

それは遺族年金をステイシーに残すこと。

ステイシー一人の稼ぎでは家のローンは払えず、家を手放すことになってしまう。しかし、23年間、刑事として勤めてきた遺族年金を彼女に残すことができれば、ステイシーは二人で暮らした家に住み続けることができる。

「夫婦」ならば当然に認められた法的な権利。しかし、同性の「パートナー」にはそれが認められていない。

ローレルは郡政委員会に要望を出す。

「(オーシャン郡)は保守的な高齢者の住民が多い。」

「結婚の神聖を脅かす。」

「年金目当てのパートナーが増えて郡が破産する。」

同性がパートナーとして認められるには、異性が結婚するよりも手続きや審査が厳しいにも関わらず…。

そんな理由から、ローレルの要望は却下されてしまう。

しかし、ローレルは諦めなかった。

愛する人のために何かを残したい。まだ若いステイシーを一人残して逝く自分が、彼女の幸せのためにできることをしてやりたい。

そして何より、警官として正義を守るために闘い続けてきたローレルだからこそ、正義が守られることを望んでいた。

遺族年金をステイシーが受け取るための方法ならばある。

デーンとローレルが法的に結婚して、デーンが遺族年金を受け取り、それをそのままステイシーに渡せばいい。

しかし、その方法を取らないのはローレルが正義を信じているから。

異性の配偶者には当然に認められることが、どうして同性のパートナーには認められないのか?

正義感の強い彼女は「平等な権利」を訴え、自身の正義に従い、正義に基づいた決定を求め続ける。

「警察官だから正義を貫きたい。愛する女性に正当な権利を残したい。」

最初はたった一人で立ちあがったローレルだが、徐々に支援の輪が広がってゆく。

最初に寄り添ったのは長年の相棒のデーン。そして活動家のスティーブン。全国紙にも取り上げられ、一般の市民たちの間にもローレルの願いに共感するものが増えてゆく。

「逆の立場なら、ローレルは助けてくれたはずだ。」と。

長年一緒に働いてきた警官たちにも支援が広がってゆく。

ゲイであることを隠してきた新人刑事ベルギンがとうとうカミングアウトし、率先してローレル支持を表明する。

ローレルがどれほど真摯に懸命に仕事に取り組んできたかが、よくわかります。きっと皆に誠実に接してきたのでしょうね。だから、一番求めているときに手を差し伸べてくれる人がいる。

病が進行し、酸素を吸入するための管を付け、髪は抜け落ち、車いすに乗ったローレルにかつての同僚たちが大勢寄り添うように、守るように一緒に郡政委員会の会場に向かうシーンは熱いものがこみあげてきて、涙が溢れました。

消耗して言葉を発するのも難しいローレルに代わって、ステイシーが郡政委員会スピーチを行う。

「私は、年金なんかどうでもいいと思っていた。

私たちは普通の市民です。あの家でずっと幸せに暮らしてゆきたかった。でもそれはできない。だからあの家を持ち続けたい。愛の思い出として。」

二人の想いは多くの人々を動かし、いつしか郡政委員たちもとうとうローレルの要望を認めざるをえないほど大きな波となっていた。

一人の人間の、愛する人を思う強い心が、人を動かし、法を変えてゆく。

尊い闘いの物語でした。

ステイシーは今も、ローレルが残してくれたあの家で暮らしているそうです。

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まとめ&気になったこと。

女性二人で家を買おうとすると不動産屋に変な目で見られたり。

医者にローレルの病状を聞きたくても「家族じゃないと教えられない。」って言われてしまったり。

夫婦ならば普通にできることが、普通に認められない。そのもどかしさ。

人を愛する気持ちの尊さに変わりはないし、愛する人のために、何かをしたいと思う気持ちは同じはず。

死の恐怖や苦しみとも闘いながら、正義と平等のために最後まで闘い続けたローレルの強さには深い感動を覚えずにはいられませんでした。

ローレルは、功績が認められて、オーシャン郡初の女性警部補に昇進します。

先にも書きましたが、女性二人の演技がとっても素晴らしく、見ごたえ十分です。

つい、ジュリアン・ムーアばかり書いてしまいましたが、エレン・ペイジ演じるステイシーも素敵な女性でした。

ステイシーは自動車整備士なのですが、女性だし小柄なので、仕事探しの最中でも男にバカにされるのです。整備士って男性が多い業界ですよね。

でも決して言われるままじゃなく、負けず嫌いのステイシーは見事に勝負に勝って仕事を見つける。年齢は下でも、自分もローレルを守るんだ!って想いが随所に見えて、本当に素敵なカップルだなって感じました。

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