『ロルナの祈り』を鑑賞。
カンヌ映画祭で二度のパルムドールを獲得したダルデンヌ兄弟の監督作品で、本作はカンヌで脚本賞を受賞しています。
重い映画が大好物の私にとっては気になる監督さんで、このブログでも以下のような感想記事を書いています。
▽親の自覚が皆無な父親が授かった子供を売り飛ばす
>>>『ある子供』/親になるということ。ダルデンヌ兄弟によるカンヌ映画祭パルムドール受賞作品。
▽解雇された女性が解雇撤回を求めて同僚たちの元を行脚する。
本作もダルデンヌ兄弟の作品らしく煽るような派手なBGMは一切なく、社会の底辺でもがき苦しみながら生きる人々の生活をたんたんと描いていきます。淡々としながらも中盤の大胆な展開と終盤に明かされる衝撃的な真実には驚愕させられました。
エンディングロールに流れるピアノの調べを聞きながら、物語の余韻に包まれた。タイトルにもある「ロルナの祈り」を想いを馳せずにはいられず、涙が流れ続けました。
ダルデンヌ兄弟は最新作『午後8時の訪問者』が公開中でぜひ劇場に足を運びたいと思っています。
追記:鑑賞しました!『午後8時の訪問者』/あの時、ドアを開けていれば…。
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Contents
『ロルナの祈り』
監督・出演・製作 基本情報
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ
出演:アルタ・ブロシ/ジェレミー・レニエ
製作:2008年/ベルギー・フランス・イタリア合作
あらすじ
「ロゼッタ」「ある子供」で2度のパルムドール、「息子のまなざし」で主演男優賞とカンヌ国際映画祭で高い評価を受けるベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟が描くラブストーリー。アルバニアからベルギーにやって来たロルナ(アルタ・ドブロシ)は、国籍を取得するため、社会のつまはじき者のクローディと偽りの結婚をする。ロルナはクローディにも言えない秘密を抱えながらも情緒不安定な彼を支え、いつしか2人の間に愛情が芽生えてるが……。08年カンヌ映画祭では脚本賞を受賞。
感想(ネタバレあり)
国籍を取得するための割り切った関係のはずだった。
主人公ロルナはアルバニアからベルギーに移住してきた女性。ベルギー国籍を取得するために麻薬中毒のクローディと「偽装結婚」をした。
二人の関係はあくまでも見せかけの夫婦。同じ家で暮らしていても寝室を分け、必要以上に関わらないように一線を引いているロルナに対してクローディは「本物の妻」のようにロルナに甘え頼ろうとする。明日の仕事に備えて就寝しようとしているロルナの名前を何度も呼び「話がしたい」と声を掛ける。クローディのダメっぷりはロルナだけでなく私もイライラさせられる(ノ_-;)ハア…
クローティを演じたのはジェレニー・レニエ。
どこかで観たことがあると思ったら『ある子供』で自分の赤ん坊を売り飛ばそうとした父親…。あ、『少年と自転車』の父親役も…!演技力に優れた役者さんで、どの作品でも殴り飛ばしたい気分(!)にさせられました。
▼この作品でもダメ父親を演じています。最後に少しだけ希望があって好きな作品。
クローディも薬物を止めようと頑張っているはのですが、売人の方から何度も接触してくるのです。追い返しても追い返しても…。
薬物で逮捕経験のある元芸能人が、握手会に売人が来て連絡先を置いて行った、と語っていたことを思い出した。一度ヤク漬けになってしまった人は、売人にとってはお得意様。相手が破滅しようがどうでもよくて金づるとしか思わないんだなぁ…。頼る人もおらず一人で薬物を絶つのは至難の業ですよね…。ロルナを頼りたがるクローディの気持ちもわからなくはない。
ロルナの秘密と 偽装結婚のゆくえ
クローディとの結婚でベルギー人になったロルナは今度はベルギー国籍を取得したいロシア人との偽装結婚の予定がありました。このビジネスでお金を貯めて故郷の恋人ソコルと一緒にベルギーで暮し自分たちの店を持つのが夢。
そしてロルナにはクローディには言えない恐ろしい秘密があった。偽装結婚の仲介人ファビオがクローディを殺すつもりでいるということ。
離別よりも死別の方が疑われないから、遠からずドラッグで死んでしまうであろう薬物中毒者を選んでロルナと結婚させたのです。離婚してすぐに再婚すると当局に目をつけられてしまう、ということらしい。それに死んでしまえば報酬も支払わなくていい。なんと鬼畜なΣ(゚д゚;) ヌオォ!?
死なせたくないロルナはクローディに薬を止めさせ、暴力を振るわれたことにして裁判で離婚しようとする。自分で自分につけた傷を暴力の証拠として。ファビオのことも説得する。
証拠を決定的にするために、クローディに殴れというのですが、クローディは決して殴らない。麻薬や窃盗と、女を殴るのは違う、として。ヤク中でクズだけど、ぎりぎりのところで優しいところもあるんだよね。でもやっぱりその直後にヤクに手を出そうとしてしまうあたり、ダメダメなのだけれど(ノ_-;)ハア…
ロルナが薬物を力づくで止めさせるなかで、心を通わせていく二人。この作品で初めてロルナが満面の笑顔を見せた時、二人の幸せそうな笑顔に少し明るい未来が見えた気がした。
しかし、物語は急転する。エラーで映像が飛んだのかと、思わず画面を戻してしまうくらいに急な展開だった。
ロルナの笑顔から一転。シーンが変わったらすでにクローディは死んでいた。
ファビオに殺されたのだ。薬物中毒に見せかけて。ロルナには知らせずにだまし討ちのような形で。
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ロルナの祈りは神に届くのか?
クローディのために何かをしてやりたい。その思いがロルナを突き動かす。
クローディの残したお金を持って彼の母親と兄を訪ねていくのだけれど、お金は一切受け取ってもらえず投げ返される。おそらくは自業自得なのだろうとは思うがクローディが家族にも見放され頼る人はロルナしかいなかったのだ。クローディの孤独が身に染みる。
ロルナはおなかにクローディの赤ちゃんを授かっていることがわかる。 妊娠している女と偽装結婚するものはいない。ビジネスのために中絶を迫るファビオに対し、ロルナは子供を守るために精一杯の反抗を見せる。ロルナには母の強さがあった。
しかし衝撃的な事実が判明する。ロルナは妊娠しておらず、想像妊娠にすぎなかったのだが、ロルナは医師の診察を頑なに受け入れようとしない。 妊娠騒動の結果、ロシア人との取引がなくなり損害を被り信用を無くしたロルナはアルバニアへと送り返される。しかし、その道中でこのまま殺されるであろうことに気付く。必死の思いで逃げ出したロルナは森の中の小屋の中で眠りにつく。
「ママが守るからね。」 「おやすみ」
”存在しない”赤ちゃんに語りかけながら…。
ロルナの「妊娠」はクローディへの贖罪の想いからか、罪悪感から逃れるためか、生きるために作りだした希望だったのか。ショッキングな展開に言葉を失った。幻であったとしても彼女の見せた母としての強さ、クローディとの子供を守るという想いは間違いなく本物だったので、やりきれない気持ちが残る。その後のロルナについては一切描かれない。
お腹の赤ん坊への、ロルナの祈るような想い…。
その赤ちゃんはロルナの、絶望の中に見える希望。彼女の人生に残された最後の希望の光。しかしその希望=赤ちゃんは実際は存在せず幻にすぎないのだ。 ベルギーで夢見た生活もまた、絶望的に貧しい暮らしの中で観た幻だったのではないか。その幻を求めてより深い闇に落ち込んでいく人々もまた多いのだろう。この先ロルナはどうなってしまうのだろうか?
祈りたい気持ちになった。ロルナのために。あまりにも過酷な彼女の人生にエンドロールのピアノの調べとともに静かに涙が流れた。
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まとめ
社会の底辺でもがき苦しむ人々がそこから逃れるために罪を犯し、その結果さらに絶望に突き落されたとして、それを自業自得だとばっさり切り捨てる気には中々なれない。
ロルナの恋人のソコルは高給を得るためにスイスの原発で危険な業務につこうと旅立っていく。底辺に生きる人々が貧困から脱出しようと思えば、不法なことをするか、その身を危険にさらすしかないのだと、思い知らされるシーンだった。頑張って真面目に働けばいつか報われるというのは、彼らにとってはおとぎ話でしかないのだろう。
作品中で、たった一度だけ見せたロルナの笑顔が目に焼き付いている。
ダルデンヌ兄弟の作品はいつも打ちのめされる。決して過剰に演出され作り出されたものではないリアル、この悲劇が現実にありうることなのだということを容赦なく突きつけられる。観ていて楽しい気持ちになる作品ではないけれど、私はこの監督の作品がとても好きだなぁと改めて思った。
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